1479ページ目 ヨーカドーの分離

小売り大手のセブンアンドアイがスーパー部門のイトーヨーカ堂を分離して上場させる検討をしているそうです(読売新聞記事「セブン&アイ、イトーヨーカ堂の株式上場を検討…経営資源を主力のコンビニ事業に集中」ヤフーニュース)。

分離後も引き続き株式は保有するものの経営資源はコンビニ部門のセブンイレブンに集中するとのことです。

 

ぶっちゃけスーパーは儲からないから切り離すということですが2000年代の時点ですでにコンビニ部門のセブンイレブン時価総額が親会社であるイトーヨーカ堂時価総額を上回っており資本のねじれ問題が発生していました。

本来なら20年前の時点でセブンイレブンが分離独立すればもっとすっきりしたのですがね。

ただ当時の戦略はイトーヨーカ堂や西武そごうが20年後に経営不振に陥ると思っていなかったらしくデパート、スーパー、コンビニの流通コングロマリットで勝ち抜く方向で進められました。

まあ実際、斜陽になりつつあるとはいえ失われた30年になるとは思っても見ませんでしたしダイエーも倒れて元々3位だったイオンがライバルになるとは思わず今後も小売業界の巨人として流通業界に君臨できると思ったのも無理からぬ話です。

しかし一般国民は年々貧しくなってきた上、ユニクロやウエルシアなど各部門の専門店をスーパー敷地のテナントに入れたショッピングモールの方が総合スーパーより満足度が高い商品を提供できるとあってより一層、総合スーパーの凋落は進みイトーヨーカ堂は大規模なリストラを余儀なくされました。

しかしそれでも止血できそうにないので切り離す処置となったのでしょう。

20年前の戦略が結果的にコンビニ部門はともかくスーパー大手としてのイオンとセブンアンドアイの明暗を分けたんでしょうね。

 

検索すると2005年4月20日付の同社資料「持ち株会社設立について」が出てきたので読んでみます。

この時点ではイトーヨーカ堂セブンイレブンデニーズジャパンのグループ3社が上述の資料を出していますがコーポレートガバナンスの強化とグループ企業価値が当時の経営統合の目的として挙げられています。

グループ全体で当時は売上高6兆円、店舗数29000店、来客数1日当たり1800万人となっていますが1ドル150円の円安になる前、コロナ禍直前の2019年の営業収益は約6兆8千億円に過ぎずこの20年間でたいして成長出来ていませんでしたね。

しかし海外のセブンイレブンが円安とインフレで大きく収益を伸ばし2023年2月期の営業収益は11兆8千億円と20年前の2倍に迫る水準となっています。

コロナ禍の最中に米国でコンビニ大手3位のスピードウェイを買収したのも非常に大きかったようです(ダイヤモンド記事「セブン&アイが円安効果で売上高10兆円台へ!「グループ解体危機」乗り切る会心経営判断とは?」)。

この乾坤一擲の大勝負でコンビニ部門、特に海外売上を大きく伸ばし国内事業、特にイトーヨーカ堂が足を引っ張っている構図はより一層鮮明になりました。

米国のセブンイレブンに客として訪れているかもしれない海外投資家からすれば日本人にとっては身近でも米国など海外投資家が全く訪れることのないイトーヨーカ堂を切り離せと言いたくなるのも無理からぬ話です。

むしろ日本に米国の収益が吸い上げられるぐらいだったら物価上昇がキツイのでその分米国セブンイレブンで値下げして消費者還元しろと思っている米国の消費者だっているかもしれません。

その辺は米国の資本の論理で日本のイトーヨーカ堂を切って生活の消費者の選択肢を減らすのはいかがなものかといった日本の消費者もいるので難しいところですけどね。

2005年時点で想定する事業ポートフォリオは「コンビニエンスストアはグローバル展開、スーパーストアは構造改革、レストランは安定成長そして金融関連の収益が台頭」とのことですがこれはこれで想定通りの成果が出た、というかコンビニ部門がぶっちぎって想定以上の成果を出してしまったが故にグループのパワーバランスが大崩れしてしまって現状のイトーヨーカ堂を中核とする企業グループの秩序は維持不能になったということですね。

米国のコンビニ事業をМ&Aで強化したら2005年のグループ再編後鳴かず飛ばずだった全社的な業績が一気に伸びました。

本当に2019年まで一体君たちは何をやっていたの?と言いたくなるような業績拡大ぶりですが一方で縮小を続ける国内市場ではいくら構造改革をやったって追い付くはずがありません。

10年20年の長期的視点で見れば海外展開できるコンビニ一強になる、レストランは安定的にジリ貧というか円安と人件費高騰でどうなるか分からないし後はコンビニの店舗網を活かして金融事業を強化するぐらいでしょうか。

00年代の時点でもすでに日本市場が縮小していく傾向はありましたが20年代になってからはより鮮明になりましたね。

なお2005年2月期の時点でセブンアンドアイにおける金融関連収益は54億円に過ぎませんでしたがセブン銀行の2023年12月期の経常利益は229億円となっています。

金融事業を強化する戦略はきちんと成果を出せたと言えます。

ただシナジーに関してはやはり疑問符を付けざるを得ないですね。

金融部門に関してはコンビニがもっとも相性がいいけどスーパーでも外食でも全部対応可能です。

ただコンビニとそれ以外、特に海外のコンビニ部門とのシナジーは果たしてどれだけ追求できるやら。

しかも海外のコンビニ部門が稼ぎ頭ですから基本的に金融部門以外はお荷物になります。

海外に進出しようにもイトーヨーカ堂は基本的に駅前の好立地に出店するノウハウはそれなりにあるでしょうが駅前を中心に繁華街が形成されるような文化がない国でそのノウハウが通用するというわけでもありません。

中国など同じアジア圏に進出もしましたが米国のコンビニ事業ほどのけん引力はなかったですね。

ブランド力も進出した当初の90年代00年代中盤はあったものの10年代あたりから地元勢のレベルアップで差が縮まり芳しくない状況になっています(ダイヤモンド記事「イトーヨーカ堂苦戦、資生堂躍進消費の二極化進む中国市場の明暗」)。

そして20年代には中国でも店舗のリストラを行っています(ダイヤモンド記事「イトーヨーカ堂・中国1号店の閉店にショック!中国人に25年愛されたワケ」)。

デパートも同じくシナジー効果はあんまり期待できそうにないですしデニーズに関しては元々売上高500億円にも満たない水準なので大勢に影響はなさそうです。

西武そごうを切り離した程度では不十分だといった声も出てくるでしょうね。

スクラップ&ビルドで好採算の店舗だけ残す方向も所詮は延命措置に過ぎません。

そのあたりは地方都市にたくさんあったデパートの閉店と似たような感じになりますかね。

日常の買い物だったら食品スーパーと各分野の専門店があれば足りるのです。

2005年時点では総合スーパーの衣料品部門を再活性化する方向も模索はしています。

例えば単品だけでなくコーディネートで販売する、イージーオーダーなどスーツ部門を拡充する、自社でSPAを強化するといった感じですね。

ただこれは専門店がもうすでにやっている、というかユニクロに勝てるか?スーツも最近はオーダーが流行ってますがこれも長年レッドオーシャンな戦いを繰り広げてきた青山などスーツ量販店大手に対抗できるとは思えないのですよ。

コーディネートだってかなりセンスを問われますがそういうのも提案できる人材は引く手あまたで果たして斜陽の衣料品部門に来てくれるかどうか。

やるんだったらものすごく投資をしないと難しいし客層を考えると投資額の割に薄利多売にならざるを得ないでしょうね。

スーパーの衣料品にも安い割にはデザインが良い掘り出し物とかあったりしてファッションに興味があった時期にはけっこうチェックしたものですけどファッションに興味がある人全員がスーパーの衣料品売り場をチェックするかというとそんなこともない、せっかく仕入れ担当がかっこいい、可愛いデザインの商品を用意してもそういう商品が欲しい人はセレクトショップとか行っちゃうんですよね。

まあコスパも考えたらデザインはともかく割高過ぎるのでセレクトショップで買うのはちょっとなぁ…と思うのですがそれでもおしゃれを追求したいという客層が集まってくるのでそれでもビジネスとして成り立つんでしょうね。

スーパーの衣料品には安さとそこそこの品質しか求めない、とにかく安くて着用できればそれでいいという人がメインの客層になりますけどそういう人は衣料品売り場にとってはあんまり儲けにはなりません。

品揃えをよくすればよくするほど労力はかさむ一方で商品そのものはともかくブランドイメージがダサいスーパーの衣料品売り場という状態ではどうしたって上手くいかないのは容易に想像が付きます。

総合スーパーの衣料品売り場が儲からないのは総合スーパーの衣料品売り場だからというのが理由なのでスーパーで衣料品を扱いたいならスーパー本体が衣料品を取り扱うのをやめたほうがよさそうです。

そんな感じで総合スーパーのてこ入れは難しかったわけですが結局20年前にセブンイレブンがイトーヨーカ堂の親会社になって資本のねじれを解消する、あるいはセブンイレブン株をイトーヨーカ堂が手放すことで資本のねじれを解消すべきという主張が正解だったという結論になりました。

この20年を振り返ってみてコンビニのグローバル展開とセブン銀行など金融サービスの強化がもっとも適切な戦略だったと言わざるを得ませんけど果たして20年前の経営陣には2024年がどうなっているか想像できていたか。

その辺については鈴木敏文さんの話も聞いてみたい気もしますが日本の衰退ぶりに関してはまさかここまで酷いとは思いもしなかった、もしかしたら今みたいな感じになるかもしれないなと頭の片隅で思っていたかもしれないけど当時の状況から信じられないので頭の片隅からも追いやったという人もけっこういたのかな。

私だってイトーヨーカ堂がここまで凋落するとは思ってもいませんでしたし。

コンビニに関しては国内はともかく海外は堅調に成長していくでしょうがイトーヨーカ堂は徐々に中核から外れて縮小均衡で生き残りを図っていくということになるんでしょうか。

10年後は一体どうなっているでしょうね。

もし分離上場したらその時点の長期経営計画と10年後の現状を読み比べてみるのもいいかもしれませんね。