政府内で株式投資などによる金融所得を社会保険料に反映させる検討が行われています(共同通信記事「金融所得で保険料増を検討 医療介護、不公平見直し」ヤフーニュース)。
現行制度上確定申告しなければ預貯金の利子や配当金、株式売却益があっても所得0で扱われ社会保険料も0となり投資で1億円作ったいわゆる億り人は20.315%の税金だけで完結するのは不公正といった声が背景にあります。
実際その通りで例えば1億円作って後は源泉徴収ありの特定口座を通じ配当利回り4パーセント程度で安定的な業績を毎期出しているプライム市場上場銘柄に投資して放置しておけば減配にでもならない限り約20%の税金を差し引かれて320万円手元に残りますが現行制度上では社会保険料算定の基礎になる所得に含まれません。
しかし労働で年収400万円だと20%の所得税に加えて約60万円の社会保険料が差し引かれます。
これは納得いかないという声も当然です。
格差是正と応能負担の観点から純金融資産1億円以上の富裕層やいわゆる億り人には相応の負担増が必要と言えます。
ただその一方で一律に金融所得も社会保険料算定に反映させるのもいかがなものかと思います。
現実に億り人になるのは至難の業ですがこの層に社会保険料を払わせるためその他大勢の一般個人まで負担が増える方法で社会保険料を徴収するのは問題ですのでこの案については反対します。
元々源泉徴収ありの特定口座は貯蓄から投資へという国の政策で源泉分離課税にして配当金の受け取り時や株式売却時に全て公的負担関係の諸手続きを完結させ投資をしやすくするために整備された制度ですが給料や年金だけでは老後の資産形成が難しいのでリスクをとって投資を行う層に水を差すことになります。
社会保険料を上げるのは事実上の課税でブレーキとアクセルを同時に踏んでいるに等しく政策に首尾一貫性がないです。
いやそんなことはない、新NISAできちんと配慮はしているといった声も政府から聞こえてきそうです。
新NISAは年間360万円(株式など成長投資枠は240万円)、生涯で1800万円までは非課税となる投資優遇制度ですが年間360万円も元手を用意できる人はそんなにいませんしこれで十分ではないか、それでも新NISAを使わない情弱な奴が悪いと思わなくもありません。
ただこの新NISAには残念な点もあります。
1人1口座しか作れず、かつ、損益通算できない点と損失の繰越控除が使えない点です。
株式が右肩上がりになるとは限りません。
状況によっては数百万円単位で損失が発生する可能性もあります。
しかし新NISAでは売却益が出ても課税されない代わりに売却損が出ても他の売却益と相殺することもできませんし損失額を翌年に繰り越して来年の売却益を減らすこともできません。
そもそも株式の売却による利益をなかったことにしてますからね。
損失だってなかったことになるのです。
安定的な業績で毎年安定配当してくれるプライム市場銘柄だったら新NISAがお勧め、というか売却を前提とせず配当金の受け取りが目的の株式だったら新NISA一択ですが一方で新NISAで買うのはやめた方がいいのではないかという株式もあります。
リスクの高い新興市場銘柄の株です。
当たればドカンと儲かる、状況次第でテンバガーを達成できこれを新NISAを通じて税金ゼロにできたら大きいですがそう易々とテンバガーを達成できるとは限らず上場ゴールで業績は悪化し続け配当がでないこともよくある話です。
それでも会社が存続して低水準でも黒字であればまだしも時価総額が基準を下回るなど上場基準に抵触し一定期間の間に基準を満たせなければ上場廃止となります。
損切りして損益通算なり繰越控除が使えない新NISAで新興市場銘柄に投資するのはかなりリスクが高く通常の特定口座で投資をした方がよさそうですね。
なお貴重な新NISAの投資枠1800万円分は欲をかいて成長投資枠に目いっぱい回すより長期分散投資用の金融商品が充実した金融機関を選んでリスクが低めの投信を積み立て投資する際に使ったら安心安全かと思いますが一人一口座ですからどこを選ぶか中々悩ましいところです。
悩むぐらいだったらとにかく始める、長期分散投資は早く始めるほど有利ではあるんですけどオカスピ話というか干支のアノマリーというのがあって「子は繁栄、丑つまづき、寅千里を走る、卯跳ねる、辰巳天井、午尻下がり、未辛抱、申酉騒ぐ、戌笑う、亥固まる」と言われています。
このアノマリーに2024年は辰年、株価は天井で巳年の2025年も上がるには上がるけど午年の2026年に崩れるといった感じですね。
長期分散投資はこの種のアノマリーを平準化できるんですけど日経平均も4万円、中国バブル崩壊や米国内の分断、中東情勢やロシア情勢など色々心配な所があって株価は好調だけどそれが破裂するのが2年後、台湾侵攻リスクも心配ですが途中で売らない腰を据えた長期分散投資を始めるんだったらやはり株価が天井じゃない年がいいなと思わなくもないのです。
話が逸れましたが元々老後2000万円問題の一件ではリスクとリターンのバランスが良い長期分散投資で資産形成を促しているにもかかわらずリスキーな銘柄に投資をするのがそもそも問題と言ってしまえばそれまでですが残念なことに投資は元手が多いほど有利で元手が少ないほど不利です。
元手が少なかったらその分ハイリスクハイリターンの投資を行わざるを得ません。
新興市場銘柄含む中小小型株を2~3銘柄程度に絞って集中投資しまずは1000万円作れないことにはなかなか厳しいものがあります。
そこまでして苦労してリスクをとって幸運にも勝てたとしても売却益が大きい分だけ所得税も重くなり社会保険料の算定に含めるならその年だけ社会保険料が一気に跳ね上がることになります。
成長により高額な配当金が出るようになったとしても元々配当前に法人税が課されさらに配当金額に課税されて二重課税、かつ、所得税率20%の所得649万9千円以下の人は投資の方が税金は重いです。
僅かな元手しか用意できなかった負け組が苦労して勝ったとしても社会保険料の値上がりでますます新興市場銘柄への投資は割に合わなくなります。
さらに社会保険料には上限が存在する点も格差是正にならない、むしろ負け組の負担を増やし格差を拡大させる点で問題です。
社会保険料は厚生年金だと年収1212万円超は112万5450円で一定(フィナンシャルワールド記事「厚生年金で最も高い保険料を納付している人の年収はどれくらい?」)、国民健康保険だと年収1160万円超は106万円で一定(日経記事「国保保険料の上限2万円上げ、年収1160万円以上が対象」)とのことですが年収1212万円の高給取りは元々社会保険料が上限一杯なので金融所得が増えても社会保険料は増えないことになります。
年収1212万円超の勝ち組は元々投資せずとも支出を減らすなりしてやりくりすれば老後の資産形成ができる人々ですが賃上げの恩恵がなく(ITビジネス記事「賃上げの波、中小企業や非正規労働に届かず 大手の「満額回答」とギャップ色濃く」ヤフーニュース)投資含む副業で資産形成しないと老後の備えができない中小企業勤務者の社会保険料は金融所得と合算で社会保険料が増えることこそ不公平です。
経済に対する悪影響も懸念材料です。
日経平均は3月に4万円台を突破しましたがインバウンドや半導体関連など一部の銘柄が押し上げただけで増資など市場での資金調達が必要なステージにいる新興企業群が上場するグロース市場は低調です(会社四季報記事「"四季報の達人"が予測、2024年はグロース市場4年目の正直」)。
利上げの影響だとか企業が小粒すぎるのもありますがやはり各社の業績が玉石金剛で鳴かず飛ばずの会社もたくさんあるからでしょうね。
新興市場は売買が低調で大口の機関投資家は参入しづらいため必然的に個人投資家が中心になります。
収穫期に売却して社会保険料が急増するとなると個人投資家としては新興市場銘柄への投資は非常に難しくなりますがグロース市場から個人投資家が手を引く投資家が増加した場合は一体誰が新興市場銘柄に投資するんでしょうね。
ますますグロース市場の流動性が悪化しそれを嫌う投資家も増えさらに株価と売買高が下落し悪循環になりかねません。
新興企業の育成という観点からも社会保険料に金融所得を反映させるのは不味いです。
ここまで株式について述べてきましたが金融所得には預金の利息も含まれます。
預金の利息も源泉分離課税、税務署で確定申告せずとも利息を受け取る際に自動的に税金が差し引かれそれで何もしなくてOKです。
ようやく利上げが行われ再び銀行が預金集めに動き出しましたが利子も社会保険料に反映させるんでしょうか。
SBI新生銀行やオリックス銀行などネット銀行だと1年物定期預金で金利は0.4%付きます。
100万円預けたら税引き後で約3200円ですね。
ほとんどゼロ金利の状態だったら1000万円でも3万2千円、1億円でも32万円にしかなりませんが利上げされたらその分、金利は上がります。
人によっては社会保険料が上がるのを嫌ってタンス預金にする人も出てくるかもしれないですね。
闇バイトで強盗事件も発生しておりタンス預金を増やす政策は危ないです。
なお預金利息は社会保険料の算定から除くのなら投資から貯蓄へ動き株価下落につながりかねないものがあります。
事務処理も大変です。
金融所得も社会保険料の算定に反映させると勤務先や金融機関、税務署や地方行政も莫大な手間がかかるので以前から源泉分離課税が取られてきました。
公務員の退職も相次ぎますが対応できるんでしょうか(東洋経済記事「人手不足で地方公務員がブラック化する未来」)。
デジタル化で対応するにしても莫大な個人情報の管理からシステム構築までいくらかかるのか不明です。
ただマイナンバーカードの問題やマイナンバー保険証の混迷ぶりを見る限り金融所得をデジタルで社会保険料に反映させるシステムの構築と運用は相当困難ではないかと思います。
税と社会保険料はそれぞれ旧大蔵省と厚生労働省の管轄ですが業際問題の存在も考えると金融所得も含めた社会保険料を徴収するなら両者から権限を分離し独立の歳入庁で管理するのが先です。
もちろん歳入庁トップは両者のOBが就任すべきでないし財務省と金融庁のトップも麻生君や鈴木君のように兼務するの困ります。
利権政治の元凶の一つは税を徴収する国税と予算配分を行う財務省が事実上一体だからという面もありますが同じ轍を繰り返すのも問題です。
一億円の壁問題もあり応能負担と垂直的課税の観点から富裕層や大企業の負担は増やすべき、巨額の社会保障費についてカネの出所は示すのも重要です。
しかし広く薄くの負担、消費税や社会保険料など逆進性が強い負担増では格差是正にならず賃上げの恩恵がなく金融所得で老後の備えをせざるを得ない人をさらに追い詰めるので金融所得も社会保険料の算定に反映させる案には反対します。
配当金自体法人税と所得税の二重課税ですが税金がほしいなら最初の段階で法人税を増税したらよいでしょう。
多くの個人投資家機関投資家に配ってから所得税なり社会保険料なり徴収するより川上の法人税の段階で税金を徴収して社会保障費に充当すれば効率的です。
株価が下がるといった声もありますがバブル崩壊後法人税減税を続けたにもかかわらず日本経済は低迷しました。
日経平均4万円越えも法人税減税でなく単に世界経済のカネ余りと円安が大きな原因だったりします。
純金融資産1億円以上の億り人は総合課税、含み損を実現させて他の種類の所得と損益通算されたくないなら申告分離課税で申告してもらうのもよいです。
配偶者の老後費用だとか能登地震のように突然の大地震で家が被災したり難病にかかるも海外の保険未適用の新薬しか助かる道がない等の事情が発生し得ることも考慮すると老後2000万円だけで足りなくなる可能性もありますがさすがに純金融資産1億円の富裕層であれば備えとしては十分でしょう。
広く薄くの負担は1億総中流社会が前提で中間層が没落し下流になれば薄い負担でも生活できなくなるし人口減少で「広さ」もなくなります。
必然的に狭く重い負担を富裕層と大企業にお願いせざるを得ないですが使い切れない分、特に本人死後に残った分について相続税で負担して貰わざるを得ないでしょうね。
景気への影響に関しても消費税よりはマシ、というか格差是正にもなります。
消費税は消費への罰金、法人税や所得税は儲けたことに対する罰金、相続税は被相続人がカネを生前に使い切れなかったことに対する罰金ということであれば消費税を上げたら消費しなくなる、法人税や所得税を上げたら稼ぎたくなくなる(そうか?バブル期の方が法人税や所得税の最高税率は高かったが当時の財界人は稼いだぞ)、相続税を上げたら…生前にカネを使い切りたくなるかどうかは不明ですがカネは天下の回りものですし生前にカネを使ってくれれば経済も活性化するでしょうね。
税にせよ社会保険料にせよ政府は負け組から毟り取ることばっかり考えてますが増税が難しいから少子化支援金のように社会保険料に名を変えて事実上の増税を行うのは卑怯です。
格差是正と社会保障の充実を錦の御旗に掲げていますが実際は真逆で格差拡大を図り老後の備えを負け組から奪い取る話ばかりです。
年金だって20年前は100年安心と言っていたのにやっぱり無理そうなので納付期間を5年延長しようとしていますがこの種の制度改悪を行おうとしてくるあたり新NISAもやっぱり改悪しますと言い出すんじゃないかと思えてきます。
氷河期世代が定年を迎える前に年金は逃げ水のように消えていきますが長期分散投資より先に新NISAが終わってしまう場合はどうなるんですかね。
途中ではしごを外されるのは死活問題です。
国家は国民の生命と安全を保障するから支持されますが嘘ばかりついて国家存続のために国民の生活が犠牲になるのでは本末転倒、支持は得られないでしょうね。
以上、金融所得を社会保険料の算定に反映させる案は金融所得を社会保険料に反映させる案は貯蓄から投資への流れに逆行する、行政の事務負担が増え人手不足に拍車がかかる、上限がある社会保険料の値上げでは逆進性が悪化し格差が拡大するので断固反対します。