茨城県の常陽銀行と栃木県の足利銀行の持ち株会社である足利ホールディングスが経営統合した地銀グループで足利ホールディングスがめぶきフィナンシャルに名称変更し常陽銀行が傘下に入る形式になっていますが会計上は常陽銀行が取得企業、足利ホールディングスが被取得企業の逆取得です。
元々足利銀行はバブル期の過剰融資により1兆円規模の不良債権を抱え粉飾をやった挙句に経営破綻し公的資金注入により一時国有化された後、野村HDが引き継いで経営再建を行い2013年に再上場させたものの規模拡大で生き残りを図りたい、一時国有化後の足利銀行の再建にも名乗りを上げた常陽銀行が2016年10月に経営統合でめぶきフィナンシャルグループを結成したという経緯があります。
そんなめぶきフィナンシャルグループですが2023年6月2日時点のPBRは0.4倍しかないです。
過去10年の株価を見てみます。
2016年10月以前は足利HDなのですが2013年12月に400円台で上場し2014年1月には600円台になるも利益確定の売りに押され下落トレンドに入り400円割れ、2014年11月に急反発し2015年には500円台に復帰するもマイナス金利政策で株価は急落し300円割れ、底から持ち直し2018年に再び500円台まで回復するが長期下落トレンドに入りコロナショックで200円割れ、その後も200円台を這う展開が続いたが黒田日銀総裁退任で金融緩和政策終了への期待感から2022年後半から上昇トレンドに入り2023年2月に380円まで回復したが植田日銀でも当面は金融緩和政策継続が判明し失望売りで300円台のまま現在に至っています。
過去10年の業績も確認しました。
2016年10月1日付で経営統合しめぶきフィナンシャルグループとなって以降、経常収益は概ね2600億円台から2800億円台し経常利益はコロナ禍で大混乱に陥った2020年3月期と2021年3月期以外は600億円台です。
しかし海外金利上昇で有価証券ポートフォリオを見直す他行と同じく2023年3月期は有価証券の売却が増え経常収益は3294億円、有価証券売却損が膨らみ経常利益は466億円で2022年3月期より28.2%減になっています。2024年3月期は経常利益575億円、親会社株主に帰属する当期純利益400億円の予定とのことでコロナ禍前の水準に届かない見通しです。長期経営計画で2030年には経常利益1000億円を目指すと言っていますがこのペースでは金融政策に変化あるいは追加のМ&Aでもない限り無理そうです。
2023年5月12日付の2022年度決算概要も確認しましたがここも他行と同様、役務手数料やコストカットで地道に利益を積み上げた一方で有価証券が足を引っ張っています。
2023年3月期は損切りで270億円の運用損益が出てしまいました。
資料編も確認しましたが連結ベースではまだ辛うじて241億円の評価益が出ていますが内容を見ると株式が1017億円の評価益で債券が352億円、その他で423億円の評価損という状況です。
なお2023年3月期、2022年3月期のKAMも確認しましたが他の地銀同様貸倒引当金関係しか記載がないです。
2023年3月末で3兆6242億円、2022年3月末から約1兆円の有価証券残高を減らしていますがそれでも金額的には無視できない規模であるのと有価証券売却損が業績の足を引っ張っており特に減益要因となった有価証券関係のKAMはほしかったです。
さて足利銀行と経営統合して今年で7年になりますが低金利や世界的な金利上昇、コロナ禍等々マイナス要因があって十分な実力を発揮できなかった環境は残念です。
ぶっちゃけ統合の成果はいくらあったのか?
ネット上にある統合前の有価証券報告書で足利HDは2010年3月期、常陽銀行は2002年3月期まで決算を確認できたのですが統合直前の2016年3月期における足利HDと常陽銀行の経常利益合計額は780億円です。
経営統合した2017年3月期以降の経常利益で780億円を超えた年は皆無なのですがもうちょっと何とかならなかったのか?
コロナ禍直前の2019年3月期が経営統合後の経常利益としては最も高い695億円ですがそれでも経営統合前の単独2行の業績合算数値に届いていません。
この7年間で一体どのような合理化を行ったのか?
有価証券の運用部門は常陽銀行と足利銀行で分かれていますが合併はまだ難しいにしても有価証券運用など部門レベルの統合はできないのか?
経営統合によるコストカットやシナジー効果について7年間でいくらあったのか説明してほしいです。
同じ川崎財閥系の上位地銀だと千葉銀行及び横浜銀行と東日本銀行の持ち株会社であるコンコルディアフィナンシャルグループがありますが2023年3月期におけるそれぞれの経常利益は869億円と798億円、ROEはめぶきフィナンシャルグループが3.45%に留まる一方で千葉銀行6.38%、コンコルディアフィナンシャルグループ5.05%となっています。
中期経営計画では連結ベースで5.5%以上を目指すと言っていますが目標は達成できそうか?
達成できても千葉銀行のROE水準には届かないのですが(ただし当然のことながらコンプライアンスを無視してまでROEを向上させろとは言わない。いくらROEが高くても不適切な金融商品の販売はアウトである)。
上位地銀といっても大企業の本社がある政令指定都市が営業基盤で東京が目と鼻の先にある千葉銀行やコンコルディアフィナンシャルグループに比べると工業が盛んで南部は東京への通勤圏とはいえ都心から遠い常陽銀行・足利銀行が不利な面は否めないです。
PBR1倍割れ解消に関してROEの改善について「2022 年度決算説明会(ラージミーティング)における 主なご質問とご回答(2023 年 5 月 26 日開催)」で株主還元強化と地道な収益力改善及び資本コスト引き下げを行っていくとのことですができるのか?
株主還元に関しては常陽銀行については2002年に不良債権処理で577億円の経常損失を出して以降、リーマンショック時には赤字すれすれにはなったものの今に至るまで経常赤字は出していないです。
足利HDも2010年3月期以降はずっと黒字であり体力自体はあるでしょう。
日銀の金融政策に変化がありYCCとマイナス金利が解除されれば貸出金利回りについては好転するかもしれないですが預金利息費用や有価証券評価損とトータルでいくら利益は増えるのか?千葉銀行は決算説明会で50億円増えると言っていました。めぶきフィナンシャルグループはどうなのでしょうか?
まあ日銀の政策に変化があってもなくても上位地銀というカテゴリー自体がスタックインザミドルな面があり貸出に関してはなかなか難しいかもしれないです。
貸出先がないから3兆円も4兆円も有価証券残高が積み上がってしまったのですが中小零細個人相手の貸出は巨額の資金を運用する上で効率が良くない上に地域の第二地銀や信用金庫、信用組合等があって競争がないわけでもない、一方で大企業向けはメガバンクも貸出先の開拓を強化しており中堅企業にも食指を伸ばすところもあります(東洋経済記事「みずほ銀行が今、個人向けの「住宅ローン」をあえて削減する真意は何か」)。
融資と同時にМ&Aコンサル等も提供して顧客が大企業化すれば将来の利益獲得にも貢献するかもしれないです。
みずほにとって中堅企業向けビジネスは今まで手薄だった、本腰を入れてこなかったところですがそういうところをメガバンクに次ぐ信用力と資金力がある上位地銀の面々は顧客として確保してきたのではなかったか。
中堅企業も大企業化と中小企業化に二極分化する可能性もないとは言い切れないです。生き残りをかけ同業他社との合併で大企業化する、あるいは海外進出を図るなどの対応をとっており地銀より資金力と海外展開に強みを持つメガバンクをメインバンクにするほうが会社の成長に寄与しそうな状況でそれ以外の再編も海外進出もせず現状維持を継続する中堅企業は地方の過疎化と共に徐々に衰退し付き合っても旨味がなくなっていくかもしれないです。
決算説明を見る限り大企業向け融資が2160億円増で2022年3月期より12.9%増、都内貸出が2260億円増で11.2%増である一方で中小中堅企業向けは1313億円増で3.5%増、地元は1213億円増で3.6%しかなく貸倒リスクを低減しつつ巨額の資金を運用するには大企業向け融資に注力した方が効率は良いと判断したのでしょうか。
地元の栃木銀行や筑波銀行と中小零細企業をめぐって厳しい割に儲からない勝負をするより東京の大企業相手のビジネスの方が勝算はあるということか。
かつての足利銀行はバブル崩壊まで積極融資で栃木のホテル等々に巨額の資金を貸し付け地元でそれ以上増やせないとなると東京で1兆円以上貸しノンバンクにもかなりの融資を行った挙句、バブル崩壊で破綻したが越境してヤバそうな中堅中小企業にまで貸出を増やすのもどうかとは思うのです。
なお中期経営計画の進捗の話で地域商社のコレトチを通じてホテルチェーンに商品を販売しているとあるが地域貢献だったら鬼怒川温泉廃墟群とか何とかしろと思いました。ホテルの廃墟とか一部のマニアには大好評ですがそれ以外の人にとっては迷惑です。足利銀行がいい加減な融資でやらかしたことの後始末ぐらいちゃんとやらないとだめです(文春オンライン記事「進む劣化と進まぬ解体、消えた経営者…鬼怒川温泉“廃墟群”はなぜ生まれてしまったのか」)。
一方で常陽銀行・足利銀行をメインバンクにする顧客企業を増やさない事にはなかなか成長は難しい、役務収益や各種コンサル等で収益を上げるのもいずれ伸び悩みしそうです。
何でまた大阪に支店があるのかと思っていたら常陽銀行70年の歩みに大阪支店は住友金属工業が鹿島臨海工業地域に来るので下請けの関西系企業と取引を行うために開設したとありました。
下請けの中堅企業だけでなく大企業のメインバンクにはなれそうか?
既に持ち株会社の本社は東京都日本橋にあり亀山甚のように東京に駐在して直接上場グローバル大企業向け融資拡大の指揮をとっているのでしょうが役務提供やコンサルで東京のメガバンクに負けないサービスを提供できそうか?
地銀が格上の上場グローバル大企業相手に多額の取引を行うには偉い人直々に動かざるを得ないのでしょうが営業基盤がある水戸や宇都宮を留守にして大丈夫か?もっとも水戸藩の藩主はずっと江戸にいたので常陽銀行も足利銀行もトップが東京にいるのは特に違和感がないのかもしれないですが。
対等の精神で経営統合するので本部は水戸や宇都宮でなく東京に置くというのは一種の方便で実際は東京で顧客を開拓しつつ金額的に重要な越境融資については有事の際に偉い人が直接対応できるようにしつつ、いい案件があれば関東にある他の地銀や中小金融機関も取り込んで関東一円限定の都銀として生き残りを図る考えなのか?そういうことなら東京に本部を置いた方が管理上都合はよさそうです。
昔の常陽銀行は戦前の一県一行主義で複数の銀行が合併してできた銀行で地銀としては早くから東証1部に上場していた(1969年時点で横浜銀行、静岡銀行、北陸銀行、足利銀行、埼玉銀行、スルガ銀行しか東証1部に上場していなかったが別に第一地銀だからといってプライム上場を維持する必要性はないのではないかと思わなくもない)、1965年にIBMのコンピューターを導入するなどデジタル化も早くからやっていた、1990年の時点で証券や信託、生保、損保など他の業種との業務提携を行っていた、地銀としては初めての女子再雇用制度を創設した、茨城中央信用組合を1995年に救済合併した、等、歴史を見る限り先進的な取り組みは行っているようです。
昔はできたのに失われた30年では何でできなくなったのか(それでも県境を越えたМ&Aを行った点は高く評価するが)?中期経営計画の内容は他行とあまり大差ないですが本来の常陽銀行だったら地銀業界の先駆者としてもっと早くにやっていたのではないかという取り組み内容でした。
トップランナーが横並びで他の地銀と差がつかない状況になってしまっていますが亀山甚や川崎八右衛門が生きていたら判断と実行の遅さにがっかりするに違いないです。
昭和の頃は茨城県や栃木県南部が東京通勤圏になることで発展し常陽銀行と足利銀行も住宅着工や人口流入で業績を伸ばしましたがTX土浦延伸が決まりました(茨城県「つくばエクスプレス(TX)県内延伸に係る方面決定について」)。
延伸にかかる総事業費は約1400億円(東京新聞記事「TX延伸「土浦方面」に決定 茨城県知事が表明 実現後、「空港」への延伸も議論へ」)ですが実際にいつ着工されるかは不明であるもののそれに関係する貸出はどれだけ増やせそうか?
年間3億円の赤字とのことですが周辺再開発や不動産事業次第でどうにかできそうな金額ではあります。川崎八右衛門はJR水戸線やJR常磐線建設で資金を提供しましたが川崎財閥の流れをくむめぶきフィナンシャルグループとしてもTX土浦方面延伸の年間収支黒字化のため何ができそうか?
公共事業で一時的に資金需要が増えても人口が減少する日本では上位地銀と言えども生き残り競争が厳しくなってきますがいっそのこと川崎財閥系の他の地銀と組んで国際業務以外はメガバンクに負けないサービスを提供できるようにするのも一案です。
常陽銀行初代頭取にして戦前の足利銀行の実質的経営者だった亀山甚は銀行のМ&Aを多く行いましたが合併行の和を保って銀行経営を行っています。
地銀再編が課題になっていますが中小の信用組合や信用金庫も多数あり人口減少時代で今後危機に陥りめぶきフィナンシャルグループにも再び救済の依頼が入るかもしれないですが合併行の和を大切にしてきためぶきフィナンシャルグループであれば対応は可能でしょう。
常陽銀行や足利銀行の歴史には見習うべき事例、反面教師とすべき事例が多くありましたが温故知新で過去の歴史を学ぶのもPBR1倍割れ解消に役立つのではないかと思います。