1194ページ目 東証プライムPBR0.5割れ企業⑨山梨中央銀行

ここは山梨県の第一地銀ですが第二地銀山梨県にはないので山梨県に本拠を置く県下随一の地方銀行となります。

山梨県一円及び多摩地区に店舗が多く吉祥寺や荻窪、新宿、神田にも支店を有し特に多摩地区を主要営業エリアと位置づけ営業を強化しています。

しかしPBR0.19で放置され銀行ごと清算したら理論上、一株純資産6129円-株価1159円(6月2日終値)で4970円の利益が出る計算になります。

皆さんお買い得ですよー、今がチャンスですよー、もう二度とこの値段で買えませんよー、と言わんばかりのバーゲンセール価格ですが過去10年の業績を見ると直近の2023年3月期の経常収益は600億円の大台を超え過去最高であるものの経常利益は2017年3月期を最後に100億円超の年度はなく当期純利益も同じく2017年3月期を最後に70億円超の年度はないです。

2023年3月期の経常収益に関しても有価証券売却益99億円が上乗せされた分が効いており持続性もありません。

過去10年の株価に関しても他の地銀同様2015年がピークで2016年に急落し2017年に盛り返すもその後は長期下落トレンドでコロナ禍において最安値を更新し小回復して現在に至っている状況です。

なお過去10年の最高値は2015年に3200円台、最安値はコロナ禍の2020年3月に580円台となっています。

2023年6月7日付のインフォメーションミーティングも確認しました。

業績自体は貸出金利息、有価証券利息とも前期より増加していますが有価証券評価損益は気になるところです。

有価証券もリスキーな外国債券と国債をそれぞれ前期より1139億円と1584億円減らしておりリスクを低減しているものの評価損は出ており東洋経済記事「全国地銀「有価証券評価損益」ワーストランキング」では23位で70億円という状況になっています。

外債はまだ400億円弱保有しておりポートフォリオ全体から見れば3.6%に過ぎないですがFRBの追加利上げやECBの利上げ(テレビ朝日記事「欧州中央銀利上げを継続 7月の追加利上げも示唆」ヤフーニュース)で今後どうなるのか?いくら評価損が増える見込みなのか何とも不明です?

なおKAMも確認しましたが2700億円も有価証券を処分しポートフォリオを変えているのに有価証券関係の記載はなかったです。

投資家も気にしているところなので監査でしっかり見たのかちゃんと説明してほしいものです。

2024年3月期も貸出金利息は増える見込みとなっていますが有価証券利息のマイナスを補うほどでなくROE5%は遠い。

もともと銀行業のROE自体が低く3.91%程度ですが(日本金融通信社ニッキンレポート2022年6月27日号参照)山梨中央銀行の2023年3月期におけるROEは2.34%しかなく昨年度より改善したものの業界平均より低いです。

ありたい姿では5%のROEを掲げていますが業績改善目標が低すぎて話にならないです。

日本企業全体のROEは9.7%(日経記事「上場企業の21年度ROE9.7%、4年ぶり高水準 欧米とは差」)であり日本株自体が低ROEで世界の負け組のなかで銀行業はその日本の中での負け組、そしてその銀行業の中での負け組なのが山梨中央銀行ということで負け組の負け組の負け組で負け組の3乗では株価も惨状、投資家が逃げ出すのも無理はないです。

中期経営計画トランスキューブ2025も確認しました。

山梨から豊かな未来をきりひらくと言っていますが東京部門はどうなるのか?この目標は東京部門の社員及び顧客を軽視しているのかと思わなくもないです。

上述の通り山梨だけでなく中央線沿いを中心に東京の主要都市、地区に支店網を有していますが決算短信の後ろにある決算説明資料では貸出金2兆2964億円のうち1兆514億円が山梨県外向け貸出金となっており全体の半分弱を占めています。

預金は山梨県内が大半であり山梨マネーを東京につぎ込んでいるので山梨マネーで豊かな未来をきりひらくといった話になったのかどうかは不明(地方交付金で国から山梨に流入したカネが東京に出戻りしている構図と言えなくもない。いくら地方にカネを配っても地域で運用先がなければカネだってあるべき場所に帰っていくのが自然であり地方衰退はある意味当然と言えば当然である)ですが収益の大部分を東京部門が占めていることを考えると内心で稼いでいるのは俺たちなのに甲府の奴らが偉そうにしていると思っている東京部門勤務者も少なくないのではないか。

山梨中央銀行は戦前の第十国立銀行の流れをくみ神田には1929年竣工で歴史的建造物の東京支店があります。東京部門も古くから東京で地域に密着して営業してきた歴史もあり山梨県の第一地銀である一方で東京の第二地銀としての性格も有しています。

中計策定PTからの声の筆頭に山梨・東京の戦略分離が挙げられていますが実際、過疎化が進む山梨と引き続き成長する東京では戦略が全く異なる、負け犬になりそうなカネのなる木と花形ではそれぞれ対応も違ってくるのですが投資家にも山梨部門と東京部門それぞれの営業方針だけでなく業績についても分かりやすく開示してほしいです。

またここも流行りの何とかXを用いており百十四銀行はSX、HRX、DXでしたが山梨中央銀行はAX、DX、SXです。HRXとAXぐらいしか違わないですがちゃんと理解して言ってるのか?どれだけ浸透できるかは不明ですが気になったのはKPIのサステナブルファイナンス投融資額です。

2023年度実績が1180億円、中計最終年度の2025年3月期が2500億円以上、ありたい姿が8000億円以上となっていますがあと2年で倍以上にできるのか?というかグリーンウォッシュ問題も懸念していますがサステナブルファイナンスの金額で1兆円弱を目指すということであれば本当にサステナブルな内容なのかどうか説明と第三者の保証がほしいです。

山梨の過疎化(日テレニュース記事「人口減…山梨が全国初「危機突破宣言」 2045年は 26%減か…希望出生率と現実にズレ」ヤフーニュース)も考えると山梨中央銀行の山梨部門はいらないけど東京部門が分離独立するなら分離独立後の東京部門の株は買ってもいいという投資家もいるかもしれません(ただし預金集めで苦労するので分離独立の実現は難しそうだが。融資先開拓にしても第一地銀の看板がもたらす信用力は小さくない)。

経営統合するにしても近隣県の静岡や長野の銀行も東京部門以外はいらないと思っていそうです。

独立路線を行くにしても他行と統合するにしても東京の支店網が強みですが生き残りを図るならいっそのこと本社を東京に移す、あるいは甲府と東京の二本社制導入レベルのことをしないと難しいのではないか。

織田信長もずっと名古屋に居たわけでなく清州→小牧山→岐阜→京都→安土と本拠地を移転しています。徳川家康三河→浜松→江戸(これは秀吉の意向もあったのだが家康自身も全くの不本意だったわけでもない)→駿府と成長・ライフステージに合わせて居場所を変えました。

不倶戴天の仇のやったことなんて知らんと思うかもしれないですが武田氏とて甲州内限定ですが地方統一と領土拡大、城下町整備による経済政策に合わせて石和→躑躅ヶ崎館→新府と本拠地を移転しました。上洛に成功あるいは三河や美濃の制圧に成功していたら領土の重心も西に移動しますが信玄も勝頼もさらなる本拠地移動を検討したかもしれないです。

衰退する山梨、特に甲府のような中心部が空洞化し西武百貨店山交百貨店が消え最後に残った岡島も大幅縮小で事実上百貨店の看板を下ろすほど不景気な街にいても先行きは見えています。

日が差さないような置かれた場所で無理に咲こうとせず成長する場所に身を置くことで人も企業も市場全体の成長と共に成長できるのはよくある話です。

リニアに関しても静岡県の話もあって難しい状況になっていますがリニアが開通すればストロー現象でより過疎化は進行する、建設している間が山梨県経済のピークになるという可能性もゼロではないかもしれません。

2000年代にあったアウトレットブームも落ち着きましたが20年前は活況だった八ヶ岳アウトレットモールも運営会社の破綻で完全閉店することになりました。

足元では半導体やEV向け自動車部品の製造業が活況でGDP4.3%成長となりましたが(日経記事「山梨県GDP4.3%成長、コロナ前超え 製造業がけん引」)人口減少を考えれば衰退は免れないでしょう。

かといって地銀という性質上さすがに県外への本社移転は難しそうです。

ただ東京と山梨の戦略分離に関しては必要、ただでさえ山梨中央銀行という社名により過疎化が進む47都道府県の中でも弱小地方自治体の地銀というイメージが先行し神田や新宿、荻窪、吉祥寺、立川、八王子といった人口が多く経済も活発な地域に支店を有している強みが伝わらず過小評価されている面も否定できません。

山梨中央銀行も過去10年の最高水準の業績で株価3000円超を回復してもまだPBRは0.5を超えない水準で2015年の業績水準を達成できる見込みも今のところはないですが成長性の低さが懸念されている点については他の地銀と異なり東京の支店網が充実し強みがある点についてもっとIRでアピールすることにより幾ばくかは改善できるかもしれません。

東京部門を強化するにしても社名自体を変える必要は特にないです。

山梨中央銀行の社名について山梨が中央の銀行から山梨と中央(中央線沿い)の銀行というイメージを持つ人が増えれば投資家の見方も変わる、都内勤務限定の求人で応募者数が増えるかもしれないが今後のIRの充実も期待しています。