止まらぬ円安ドル高で円相場は1ドル155円という34年ぶりの水準になっています(毎日新聞記事「34年ぶり円安 一時1ドル=155円台 日銀為替介入の警戒感高まる」ヤフーニュース)。
米国でもトランプ前大統領がこの円安ドル高について大惨事だと言っているようです(TBS記事「トランプ前大統領 34年ぶりの円安・ドル高に「アメリカにとって大惨事」」ヤフーニュース)。
米国の製造業にとっては輸出が減りますがトランプ前大統領はラストベルト、米国の中西部から北東部にある製鉄や自動車産業など古き良き時代の米国経済を支えた地域の白人労働者層を支持基盤にしており選挙戦の最中ということで上述の発言に至ったのでしょうね。
重厚長大型産業は労働者の人数が多く大票田ですしギリギリの戦いになってますから円安ドル高を是正して強い米国の製造業を復活させラストベルトが繁栄していた50年代60年代の古き良き時代を取り戻す的なストーリーで支持を訴える戦略ですかね。
80年代90年代の日米貿易摩擦の記憶もある人もまだけっこういるでしょうし円安は米国にとっての脅威、トヨタにBIG3が駆逐されると未だに思っている人もいるかもしれません。
USスチールが日鉄に買収されようとしていますがUSスチールが凋落したのもドル高のせいだという認識の人もいることでしょう。
BIG3もUSスチールもドル高よりむしろ時代の変化についていけなかったり再編に出遅れたりして販売台数が伸び悩んだり生産コストが高止まりしたのがより大きな原因なのですけどね。
まあ円安ドル高が大惨事なのは日本にとってもまったくその通りの状況になってしまっています。
トランプ前大統領はちょうどこのタイミングで麻生君と会談してますし円安に困っている日本へのリップサービス的な側面もあったかもしれません。
いや実際、牛肉とか元々国産は高くて買えなかったんですけど米国産牛肉もずいぶんと高くなっちゃいましたからね。
円高の頃は日本の農業団体が米国産の安価な農産物が入ってくるのは困るので高関税を維持すべきだ、米国も自由貿易推進というか円高の日本にもっと農産物を輸出して儲けたいという感じで貿易交渉において激しいやり取りがあったのを思い出します。
たしかに円高の頃の米国産農産物は安かった、ハンバーガーなんて1個80円で買えましたからね。
食べ盛りの時期は胃袋にとっての救世主でしたよ。
それが今ではハンバーガー1個170円です。
小麦も牛肉も円安で上がってるしバイト代も若い世代が減ってしまって上がってますからね。
米国産牛肉の関税率は2020年時点で25.8%だったようですが(日経記事「牛肉輸入、米国産に勢い 関税率低下で産地変更も」)1ドル150円時代では関税を完全撤廃しても1ドル100円時代の頃より高くなります。
一方で円安で和牛の輸出は有利になるので米国は和牛の関税を引き上げています(日本農業新聞記事「米国の牛肉輸入関税上昇 今年も早期に定率枠消化」)。
円高ドル安が逆転したら攻守の立場だって変わりますので米国は当然保護主義に傾くでしょうね。
こんなことになるんだったら貿易の自由化を推進しておくんだったと思いますけど物価高対策で円安ドル高の是正が難しいんだったら海外からの輸入農産物の関税下げてほしいものです。
農家が困るといっても国産品については元々高いし自由貿易を推進して外国に輸出したらどうかと思えてきます。
円安もエンゲル係数を悪化させる要因になりますが全く本当に大惨事です。
…が、米国は本当にそれでいいんですかね。
同じことを日本もやったんですけどさすがに1ドル80円の円高になってくると今度は国内製造業が厳しくなるので量的緩和をやってほどほどの水準、1ドル100円~120円ぐらいの時代が長かったんですが米国の場合はドル高でも物価そのものも上昇しています。
米国とて全ての食料を自給自足で賄っているわけでもないですが輸入食料品の値上がりはドル高の恩恵で幾ばくかは抑制できているはず。
もしドル安になったらその分だけ食料品が値上がりすることになりそうですが米国の中低所得層の家計は大丈夫か?
ラストベルトの支持層も物価上昇となったらトランプ前大統領に反旗を翻すかもしれません。
まあ日本だって非常に困っているので円安ドル高は何とかしてほしいので米国政府がドル安誘導に動いたとしても特に反対する理由もないですが。
とはいえ変動相場制では通貨の価値は国家でなく市場が決めますので政府が介入したとしても長続きするものでもありません。
円安でもドル安でも物価上昇に追い付く賃上げ、年金暮らしの世帯も物価上昇に見合った年金の支払いが重要になってきます。
日本も米国も一部の富裕層と大企業が富を独占し過ぎですが日本にせよ米国にせよ不安定な政治は格差問題、もっと言えば一般国民の胃袋の問題が原因でもあるわけです。
一部の上級国民だけが腹一杯で一般国民にメシを確保できないような国家が存続できないのは古今東西共通です。
日米の偉い人、甘い汁を吸う上級国民の皆さんは大惨事を回避するためにはどうすべきかよくよく考えなければならないと思いますよ。