1492ページ目 四半期開示は株主利益至上主義に非ず

日経記事「付加価値の適正分配 再考を」と「政策保有分」もあなたの責任」は目を通しました。

四半期開示制度=株主利益至上主義と誤解している人だとか気候変動等非財務開示と財務開示をトレードオフとして扱う企業があったりして大変迷惑です。

 

前者の記事は主に「株主還元が増える一方で賃上げはないし売上高も設備投資も停滞し国全体でGDPも停滞した。株主還元の原資はコストカットによる利益で本来投資に回すべき資本も投資家によって回収されている。増資など市場での資金調達は1兆円程度なのに自社株買い含む株主還元は30兆円もあった。失われた30年は投資家による企業資本の回収の時代だったので低成長だったのではないか。その理由はROEやPBRなど定量的な情報を重視したのが問題でこれを改善させるため企業は自社株買いに走った面が否定できない。自社株買いのせいで賃金が上がらなかったしイノベーションが起きなかったのが問題だ。だから岸田閣下は四半期開示を簡素化し自社株買いの制限を掲げ中長期の経営を促した。四半期開示の簡素化で経済界に賃上げを促した。株主には一定の自社株買いについて配慮すること及びストックオプションを拡充すればよい。従業員株主が増えればアクティビストとかの外部株主が増えるよりも経営が安定する、中長期的な成長を目指すべきだ」といった感じです。

露骨な岸田上等兵擁護の記事ですがスズキトモさんとやらは「新しい資本主義」関係の御用学者ですかね。

 

さて内容を検討してみましょうか。

たしかに株主還元は増えてますね。

そりゃそうです、何せ企業内には使い切れないほどの現金が350兆円ぐらいあって内部留保も600兆円近くあるんですからね。

本来であればこれらを賃上げだとか設備投資に回すべきなのです。

法人税減税はそのためにアベノミクスで行った施策です。

 

投資家にも色々あって全員が全員短期利益追求型のアクティビストではありません。

成長に必要な資金まで自社株買いや配当で流出させて売り逃げする焼き畑農業的な投資家だけでなく長期保有で株価上昇と安定配当を望む投資家もいるのです。

むしろそっちの方が多いんじゃないですかね。

 

株式を安定的に長期保有する大口の機関投資家には生保だとか年金だとか契約者に保険金を支払ったり年金を支払ったりしなきゃいけない人たちもいます。

投資先にはきちんと成長して安定配当も出して貰うことを期待しており成長に必要な分のお金まで全部株主に還元しろなんて無茶苦茶なことは決して言わない人たちです。

しかしその人たちだって長年にわたって鳴かず飛ばずで有り余る現金を活用できないんだったら別の会社、きちんと成長している米国など他国の会社に投資せざるを得なくなります。

株価が上がらないし実効性がありそうな中長期経営計画すら出せないのに無駄に現金を貯め込んでいる会社に対しては配当なり自社株買いなりして貰わないと困るんですよ。

本来なら現金を有効活用して成長してほしいんですけどそれすら投資先の会社ができていないから仕方なく増配なり自社株買いなり株主還元を要求しているのです。

 

著者のスズキトモさんだって生命保険契約とか年金保険料払ってるでしょ。

あんただって困るんだぞ。

50代だったら親が亡くなったり本人も健康を害したりすることもあるけどそのあたりのリスクは金銭面も含めてもちろん自覚してるよな。

さも投資家が搾取したかのような書きぶりの文章ですが濡れ衣です。

というか株主還元を増やしたにもかかわらずまだ現金が増え続けて350兆円まで膨れ上がったことがむしろ異常です。

株主還元を増やしてもまだカネは十二分に余ってるわけですから株主還元のせいで賃上げや設備投資が行われなかったとのスズキトモ博士の主張は明確に誤りです。

やっぱり法人税減税いらないじゃねえか!あとスズキトモ博士は学部からやり直せ!

ここまで優遇したのにまだ結果を出せない会社も少なくないのが非常に残念です。

 

社内政治ばっかり上手、コミュ力だけの人が出世してしまったことも原因ですけどコミュ力で誤魔化せないから数字というのはものすごく大事なんですよ。

言い方次第、ネガポジ変換で残念な内容をあたかも問題がないかのように伝える人は昔からいます。

大日本帝国軍の撤退を転進と言い換えるような奴ですね。

定性的な話で煙に巻く人たちは別に企業に限らずいろんなところにいますけどやはりお金を扱ってるわけですからきちんと定量的な情報で管理しませんとね。

どんなに言い方を変えたって客観的な事実は変わりません。

大日本帝国軍の戦線がどんどん日本本国に向かっている、戦死者が激増し原油などの軍需物資も残りが少なくなってきたのは撤退でも転進でも変わらず定性的な説明でなく定量的なデータで戦況を判断しなければならないのです。

調子のいい事ばかりいう政治家や経営者の口八丁に騙されるわけにはいきません。

駄目な状況をあたかも問題がないかのように誤魔化されて後で大変なことになるのはお断りです。

ROEだとかPBRだとか資本効率性指標による管理は必須なのです。

「中長期」を理由に赤字を繰り返す会社もあるものですがそれも困ります。

むしろ数字による管理がいい加減で投資家も経営者に何も言わなかったから失われた30年が続いてしまったのではないか。

去年よりは減りましたけどさすがにPBR0.5倍割れとか見過ごせないですね。

 

従業員の立場で経営者にモノ申すのはとても大変、干されるか最悪クビにされるかですしより上位の立場である投資家に頑張ってもらわないと財務も非財務もなかなか改善しないんじゃないかと思いますね。

コストカットだけしか触れてないですが巨額の法人税減税が最終利益を押し上げた点について触れていないのも問題です。

四半期開示制度を株主利益至上主義ということで槍玉に挙げてますが本来四半期開示含む開示制度全般(財務非財務両方)は決して投資家だけのためだけの制度ではありません。

上場企業は社会の公器である上、巨額の法人税減税や補助金等を受けており税金の使い道を一般国民に示す必要があります。

政治献金も問題になっていますが本来会社の目的に政治献金が含まれるのかどうかも考慮すると企業の側もきちんと開示して貰わないと困ります。

業務に関係ない政治家に献金を行うのは株主利益になりませんし業務に関係ある政治家に献金を行うのは露骨な利権誘導で一般国民の利益になりません。

どっちにしろ問題があるので企業は誰に献金を行ったのか説明責任を有しています。

 

もちろん内部管理もしっかりやってもらわなければなりませんし四半期レビューで誤りがないかどうかきちんとチェックしてもらう必要があります。

四半期レビュー廃止するから賃上げしろといった話があったかどうかは知りませんが賃上げについてはアベノミクスで行った巨額の法人税減税が原資に回す約束でしたので経済界に譲歩し過ぎです。

盗人に追い銭をくれてやるようなもので断固認められません。

自社株買いに関しては余ってる現金をそのままにして置かれるのは非常に困りますね。

貯金箱じゃないんだぞ会社は。

 

従業員株主制度もダメとは言いません。

まあ従業員であると同時に株主にもなれば愛社精神も高まり転職せずそのまま定着する人も出てくるかもしれませんし株主総会の与党株主になってくれれば会社としたらそれでいいでしょうね。

けどね、会社が不況になって給料が減った場合は勤め先の会社の株も値下がりしてダブルパンチになるリスクとか考えましたか?

上り調子の会社だったらそのまま買って寝かせておけばいいですけど構造的に斜陽の会社の株を貰ったって困ると思いますよ。

会社で不祥事が発覚した場合に株主総会で責任追及の声が上がることもありますけど株主総会会場の前方とかに与党株主として社員とかOBとかが陣取って会社に不利な質問をする余所者は許さん的な空気を醸成されるのも迷惑なんですが。

 

四半期開示や資本効率性指標による管理が中長期的な成長を阻害したとの主張は根拠のない言いがかり、米国企業も米国もきちんと成長してますし日本の場合は経営者の質に問題があると言わざるを得ないのですよ。

バブル越えの日経平均だって円安になったから海外から巨額のマネーが入ってきたというだけの話であって実際にはGDPは来年に5位転落だし円ベースの見かけ上だけ株価が上昇したに過ぎないんじゃないですかね。

付加価値の適正分配を再考し株主還元をもっと減らせといった主張は不適当です。

巨額の法人税減税と金融緩和で円安にしてやったにもかかわらずその割に成果を出せたとは言い難く賃上げも不十分な会社の経営者を取り換える、かつ、法人税減税の見直しを行う、四半期開示(四半期レビュー含む)で巨額の法人税減税と円安による国民負担を原資にした内部留保の使い道について投資家だけでなく一般国民に対し各企業は説明責任を果たすべきと考えます。

 

後者の記事では気候変動とか非財務開示を拡充するけど政策保有分、持ち合い株で取引先の株を持ってる場合は取引先の分についても情報開示に反映させるといった話がありましたね。

持ち合い株が多い日本企業ほど手間がかかります。

元々資本効率だとかガバナンスの観点から持ち合い株を解消すべきといった声もありますが非財務開示も絡んでくると持ち合い株に対する逆風が強くなるでしょうね。

非財務開示拡充を機に持ち合い株を解消するのも一案ではあります。

さてこの記事の大筋に関してはともかくとして非財務開示の拡充のため財務開示を犠牲にするのは非常に困るのですよ。

住友商事は会計部門の人材をサステナビリティ部門に回して対応していますが会計を疎かにされるのは上述の通り投資家や一般国民に対して巨額の法人税減税や円安を原資に積み上げた内部留保の使い道についての説明責任を果たす上で問題です。

上場企業だったら必要な人材を雇え、もともと間接部門ということで経理部門に人材を回さない会社も少なくないですが雇用を増やすために法人税減税をやったことを考えるとこれも経済界の約束破りです。

サステナビリティだったら住友化学も熱心にやってますけどあそこも大赤字です。

原油相場次第でラービグの収益も変わってきますけど商品相場とか為替相場みたいな急激に変動しやすい要素に大きく業績が左右されるのであればレビューを受けた四半期開示で信頼できる数字を出してもらう必要があります。

もちろんグローバル展開して資源も幅広く取り扱ってる住友商事も同じ事、資源関係の取引に付随してデリバティブとかもたくさんやってますがそういう複雑な取引をやってる会社も会計処理が正確なのかどうか相当気を付けなければなりません。

銅地金の不正取引でとんでもないことになった前科もありますし。

というか会計部門の人員削減とかやめろ。

無鑑査がまともな企業の証とか刀鍛冶じゃあるまいし実に危うい。

刀は嘘をつかないけど人間は嘘をつく。

特に金持ちや権力者だとか上級国民は嘘をつく、一般国民を騙すという前提で臨まないと足元をすくわれるリスクは失われた30年で嫌と言うほど味わった。

粉飾事例も後を絶たないし問題は早期発見早期是正が需要、財務非財務を問わず不都合な情報ほど経営者は隠蔽したがるから用心を怠るわけにはいかんのよ。

実際小林製薬株主総会直前になって紅麹健康被害問題を出してきたしな。

あそこも信用低下で売上を減らしているがそういうところに関してもレビュー付きの四半期開示で説明責任を果たすべき、隠ぺい体質を考えると非財務だけでなく財務開示に関しても何か隠し事があるんじゃないかと思えてくる。

非財務開示は負担というが必要な人員を揃えるために必要なリソースは350兆円も余っている現金の有効活用で確保できないはずがない。

非財務開示は当然にやってもらうとして非財務開示が負担だから財務開示、特に四半期レビューを廃止しろと言う主張はもちろん認められない。

経済界は有り余る現金を有効活用して社内体制を整え財務開示非財務開示両方とも充実させ投資家はもちろん一般国民にも財務非財務で説明責任を果たす必要があります。

 

4月24日追記

日経記事「企業の現金保有 憲章丁寧に」とか昨日の今日で気持ち悪いなぁ…

ま、GDPが増えればそれに応じて現金保有残高が増えるとの話は実際のところたいして日本のGDPは増えてないし日本企業に関してはやはり過剰に増やしているとしか言えないんだけどな。

中小企業もコロナ禍という不確実性もあってゼロゼロ融資を増やした結果として実質無借金の会社はコロナ禍前より1割ぐらい減ってはいる(日経記事「東京商工リサーチ、2023年全国「無借金企業」調査の結果を発表」)。

DBJ記事「負債とキャッシュが積み上がる日本企業」にも現金増加分は基本的に負債の増加分で特に中堅以下の会社が現金を増やしているといった話はあるな。

だが特に大企業とか設備投資はほぼ内部留保だけで賄える範囲しかやってない。

失われた30年以前のように設備投資や研究開発費に充てるために借金はマイナス金利を導入したにもかかわらずね。

安全第一といえば安全第一だけどこれじゃあ借金なり増資なりでリスクを負って攻めの投資をやってる外資系には勝てんわな。

ようやくマイナス金利は終了し金利ある世界に戻ったけどまだまだ欧米に比べたら破格の低金利、ほとんどゼロ金利だな。

この水準でも投資の原資に借金は使いません、ウチは実質無借金を継続しますとか吹けば飛ぶような零細企業はともかく大企業だったらものすごいチキン野郎か有望な投資先を見つけられない無能かどっちかだね。

コロナ禍で膨らみ過ぎた現預金については使わないんだったら返済してすっきりしてもらうとして本来なら借金なり増資なり自助努力で資金を調達して設備投資なり研究開発なりして業績を向上させ賃上げをしていくのが筋というものだ。

それを稼いだ分しか投資に回さない、どうしても投資してほしいんだったら法人税減税しろというのはあまりにも虫が良すぎるね。

コロナ禍前には上場企業の実質無借金割合は6割だったな(日経記事「上場企業 実質無借金、6割に迫る 17年度末、好業績で財務改善 手元資金、問われる活用法」)。

中小企業に比べて相対的に財務が盤石な上場企業はコロナ禍後もそこまで大崩れはしていまい。

コロナ禍ですら実質無借金企業は中堅中小も含めて21.6%もあり何だかんだで2.8%しか実質無借金企業は減ってないしな。

実質無借金の上場企業にまで果たして法人税減税をそのままにしておいていいものか。

去年も元気に自社株買いを頑張ってとうとう10兆円台に乗ったけど(日経記事「自社株買い、初の10兆円」)やっぱり現金は余っているようだな。

法人税に関しては中小企業はたいして支払ってないし実質無借金でとにかくリスクをとらない大企業優遇はとてもよくない。

一般国民は奨学金とか住宅ローンとか生活費補填の消費者ローンとか借金で大変なのに消費税とか社会保険料のような逆進性が凶悪な負担を増やして実質無借金の大企業は優遇するとかふざけるなよ。

なぜ借金に苦しむ一般国民が消費税増税で実質無借金の大企業を法人税減税の穴埋めをしなければならないのか。

自助共助公助の原則からすればまず大企業こそ自助努力で投資や賃上げをしなければいけないのにな。

一般国民の生活を犠牲にして貯め込んだカネの使い道とか管理の実態とか借金で困ってる我々負け組にもきっちり説明してほしいし法人税減税で勝ち組大企業は優遇とか我慢ならんね。

コロナ禍のゼロゼロ融資に関してはもちろんきっちり返済してもらいましょうか。

現金に関しては負債による調達も考慮しなければならないとはいえコロナ禍を経てもなお実質無借金の大企業の多さを考えるとやはり経済界、特に大企業は現金を過度に貯め込み過ぎたと言わざるを得ないですね。

実質無借金以外に大企業に関しても持ち合い株だとか本業と関係が薄い投資有価証券に遊休固定資産、賃貸不動産の類をたくさん持ってるんだったらそれも本業への投資や研究開発費に回したり賃上げ原資にしてもらいます。

それでもまだ余ってしまった分についてはもちろん吐き出してもらいましょうね。

いくら業種だとか企業の成長ステージに応じて必要な現金残高は異なるとは言っても実質無借金だったり持ち合い株だとか本業と関係がない余剰資産も処分して借金返済に回せば無借金になるような会社が上場企業の半分という有様ではやはり全体的に経営が非効率過ぎだと言わざるを得ませんし大企業に減税するのは甘やかしすぎです。

これまで優遇し過ぎた法人税減税に関しては廃止して富の再分配を行うべき、自力で借金なり増資なりで資金調達ができる大企業は自助努力で資金調達してもらって法人税減税廃止分は社会保障費なり中低所得層の税と社会保険料負担軽減に充当すべきと言えますね。