時事通信記事「設備投資の要件、厳格化検討 法人税優遇で 政府・与党」ヤフーニュースは確認しました。
経産省と経済界が反対していますが効果がない法人税減税は廃止の方向で検討するのが適切だと思います。
本当に投資が必要なら減税より五百兆円の内部留保、三百兆円の現金の活用が先です。
経済界は投資促進の妨げになると言っていますが財務省「法人企業統計」(2022年3月)を見る限り製造業はリーマンショック前の水準にすら届いていないです。
名目民間企業設備投資額の推移(内閣府「2022年10-12月期四半期別GDP速報(2次速報値)」(2023年3月)参考)を見ても巨額の投資減税を行った割にリーマンショック前ほど大きく増加はしていません。
なお22年は07年以来過去最高水準になっていますがコロナ禍の投資見送りの反動である点も留意する必要があります。
また円安による建設コスト上昇が名目投資額を押し上げている面もあり1ドル100円で換算するとむしろ設備投資に熱心でない企業が多い可能性も否定できません。
法人税減税を行ったにもかかわらずこの程度の水準では法人税減税を廃止縮小しても投資促進の妨げにならないと言わざるを得ないですね。
むしろ景気回復局面でも無駄に内部留保と現金が積み上がり経常利益は過去最高でも税収は増えず財政再建が進まないので社会保障費を賄えず消費税増税や社会保険料値上げすべきと言い出す人が幅を利かせてしまい国民の利益になっていない点で極めて有害と言えます。
2013年の東洋経済記事「投資減税で設備投資は増えず、むしろ逆効果「高い法人税率が、国際競争力を妨げる」は間違い」もありますが十年前の指摘とほぼ同じ結果になってしまい残念です。
2012年の時点でも内部留保300兆円突破で活用が課題になっていましたがこの10年で200兆円分増えたものの一般国民には全くと言っていいほど流れてきません。
国際競争力も低下して世界2位だったGDPも今では4位です。
内部留保が増加したので株主は儲かったではないかとの声もありますが株価も法人税率が今より高かったバブル期の水準に届いていないです。
円安を考慮すると住友化学のようにドル換算で株価は06年の3分の1程度になった企業さえあります。
一方で役員報酬は実質賃金下落1年半継続を尻目に増加していますが親会社株主に帰属する当期純利益を業績連動型役員報酬の評価基準に設定する企業の経営者は報酬が増加しここ十年は経営者の一人勝ちだったのではないか。
十倉君は戦争で儲けたカネで本人も過去最高の役員報酬を受け取るのだから格差が拡大するのも当然です。
投資家も親会社株主に帰属する当期純利益だけでなく税引き前当期純利益や日本基準なら経常利益も企業の将来性を判断する上で重視しており株価を見る限り法人税減税で増やした内部留保より企業の自助努力による収益性を評価しているとも言えます。
「信用を重んじ確実を旨とし」「浮利にはしり軽進すべからず」なら自助努力によらない収益で儲けた会社の株は買いませんが株価にとっても法人税減税は決定的要因とはならないのではないか。
中小企業への影響を懸念する声もありますが後継者難の企業からすれば人手不足で廃業検討中に減税されても設備投資をするとは思えないです。
機械を限界まで使って壊れたらそこで事業終了、機械を買い替えるつもりも一切ないというつもりで仕事をしている事業者も少なくないんじゃないかと。
大規模投資の翌年の投資が縮小する懸念も常識的に考えれば巨額の支出の後で財布の紐を締めるのは企業も個人も当然です。
大きな買い物をしたらよほどカネが余っていない限りさすがに節約しようと思うのが普通の感覚です。
減税で無理に投資を勧めても過剰な設備と借金が重荷になる、減税があるからと収益性に乏しく減税がなければ採算が取れない設備投資を行うのは生産性向上につながらず不良債権増加を通じて銀行にも損害が発生する懸念もあります。
2015年のロイター記事「焦点:法人減税、設備投資を後押しせず 企業は必要投資に限定」もありますが設備投資をやる気がない企業に減税しても設備投資を増やすと思えずデータを見る限り実際に投資は増えませんでした。
もちろん内部留保や現金不足かつ担保がなく借金もできない企業には一定の配慮は必要です。
読売新聞記事「戦略物資の国内生産促す減税措置、蓄電池・EVなど5分野検討…政府が参入を後押し」もありますが経済安保の観点から国内生産で必要量を確保する必要がある品目関係の設備投資減税まで削れとは言いません。
後発薬不足も深刻ですが社会保障費削減のため後発薬使用を推進するなら後発薬の安定確保が当然必要になります。
薬の確保も経済安保上重要で中国でマイコプラズマ流行中ですが薬不足だと既存の感染症をわざと持ち込み国内を混乱させるバイオテロも可能となります。
なにもコロナのような発生当初ワクチンも治療薬も存在しないウイルスを作成する必要すらなく既存のウイルスをばらまくだけで十分脅威になる、子供が大勢体調を崩せば親も看護せざるを得なくなり例えば軍需関係の製品や生活必需品の生産を停滞させる効果を狙うことも考えられます。
治療法があっても薬不足で治療できないと生命の危機に陥る感染症もありこのまま放置するのも危険です。
新規参入も生産性の高い設備投資なしでは採算確保は困難だと思いますが厚労省資料「後発医薬品産業の現状等について」も読む限り既存の後発薬メーカーも生産能力に余裕はなさそうです。
内部留保も現金も少ない中小企業は経営統合も推進しつつ採算が取れる経営計画が前提の設備投資であれば減税を検討する価値はあるかと。
とはいえ経済全体を見る限り特に大企業は五百兆円の内部留保と三百兆円の現金が金利を下げ円安にして減税を行っても動かなかった現実は重いです。