1179ページ目 東証プライムPBR0.5割れ企業③大分銀行

低PBRランキングワースト3位(2023年6月2日時点)は大分銀行です。大分県に本拠を置く第1地銀で隣の福岡県や熊本県、宮崎県及び東京都と大阪府にも店舗があります。

PBRは0.18、一株純資産は11861円という状態で本来の資産価値の5分の1未満という低評価となっています。

ここ10年の株価は栃木銀行百十四銀行と似たような傾向で2015年に5000円台を回復しましたが2016年に急落し3000円割れ、翌年4000円台を回復するも長期下落トレンドでコロナ禍では2000円割れ、直近では2000円台を回復するもおおむね横ばいで推移しています。

過去10年の業績は経常収益が2022年3月期以前は概ね600億円前後を行き来していますが2023年3月期に729億円というここ10年で最大の経常収益で8年ぶりの増収増益決算となっています。

ただし経常利益は2015年3月期の164億円を頂点に減少傾向になり2018年3月期に経常利益100億円割れが定着した状態になっています。

経常収益だけ見れば2022年3月期が過去10年でもっとも少なかったものの経常利益では過去最高の経常収益になった2023年3月期と同じ70億円台、当期純利益に至ってはほとんど大差がない状態です。

来期以降に関しては当期の増収要因だった有価証券利息配当金や国債等債券売却益、貸倒引当金戻入益が減るのか経常収益632億円、経常利益78億円を見込んでいます。

債権関係の損失や人材投資、IT投資もあり費用が増加するのもやむを得ない(初任給の引き上げとベースアップを実施しているが物価上昇を考えれば当然に実施しなければならない)ところですが2024年3月期は2023年3月期より業績悪化が見込まれるということであれば8期ぶりに増収増益を達成しても株価が上がらないのも納得です。

というか決算ハイライトの業務粗利益・資金利益の状況を見ると資金利益の内訳で貸出金利息212億円と有価証券利息配当金211億円でほぼ同じ数値になっており先行きが懸念される有価証券の運用の比重が大きくて大分銀行株は買わないのが無難と思った投資家も少なくないのではないか。

なお有価証券の含み損益(東洋経済記事「全国地銀「有価証券評価損益」ワーストランキング」)では31位で53億円の含み損となっています。

有価証券の状況を見ると1兆3923億円もの巨額の資金が運用されているが株式投資は堅調で2023年3月末時点で252億円の評価益が出ているのに対し債券や外国証券等が総崩れで損失額は305億円と株式投資で出た評価益をもってしても相殺しきれていません。

株式投資はリスクが高く債券はリスクが低いので安定的に運用を行うなら債券に比重を置いたポートフォリオにするのが本来のセオリーです。

しかし現実には株式投資よりも金利上昇リスクを抱える債券の方がリスクが高くなり損失まで発生しているというセオリーが通用しない状況になると脆いものです。

地銀の多くが同じことを考えて同様の運用を行った結果として金利上昇リスクによるマイナスを多くの地銀が抱えることになったのでしょうか。

横並び体質なので損をするときもまた横並び、レミングの集団行進による集団自殺に似ています(実際は迷信との話だが)。

リスクが懸念される越境融資に関しても貸出金の状況で確認しましたが2023年3月末の時点で総貸出金2兆982億円のうち県外向けが3871億円で約18%の比重を占めています。

ただ県別の融資残高は不明です。福岡や熊本、宮崎は隣の県なので情報収集も本社からの支店の往査も比較的行いやすく勤務状況や債券や預金の管理状況など現地現物の確認をとりやすい一方で大阪と東京は大丈夫か?遠隔地の支店はきちんとグリップできているか?

このあたりも2022年3月期のKAMを確認しましたが有価証券関係と同じく(2021年3月期に全体ではプラスだが一部で評価損を出す銘柄が現れ2022年3月期には株式の含み益でまだプラスになるも評価損は109億円となっている)特に詳しい説明はなく他行と大差がない内容でした。ここのKAMも見る価値はそんなにないです。

中期経営計画2021も確認しました。

2024年3月期が最終年度になっていますが連結当期純利益47億円、恐ろしく低い水準ですが2020年にコロナ禍が発生し2021年3月期に当期純利益40億円割れしたので相当保守的に見積もった結果なのでしょう。

さすがに2024年3月期の業績見通しは減収減益とはいえ中期経営計画よりはマシな金額ですが低PBR解消のためにはまず2015年度並みの水準の業績目標を達成しなければならないです。

株価5000円でもPBR0.5割れの状態ですが経常収益800億円、当期純利益100億円ぐらいの業績を実現しないとなかなか難しいのではないか。

なおコストカットにより利益を出すのはやめたほうがよいです。

「感動を、シェアしたい」と言っていますが26年間ずっとベースアップをせず(日経記事「大分銀行、26年ぶりベア 8月に4500円」)感動とかやりがい搾取より豊かさをシェアしてよと思っている社員もいるかもしれないです。

令和4年賃金構造基本統計調査の概況を見ると都道府県別賃金で全国平均は月311800円なのに対し大分県は月275100円という状況です。

資金需要をつくると言っていますが(日経記事「資金需要は自らつくる 大分銀行が放った「3本の矢」」)賃上げによる好循環を大分県でも起こさない限り難しいでしょう。

地元の殿様企業の大分銀行でさえ失われた30年間でベースアップをしなかったから他の県内企業も追随し全国と大分県の県民所得の格差は縮小せず県外に人材が流出しより一層過疎化も進んだのではないか。

「シェア」には分け前、株式といった意味もありますが今の業績と株価、ようやくベースアップが決まったとはいえまだ低水準の賃金では株主も社員も感動はできそうにない、満足にすらほど遠いものがあります。

中期経営計画2024では継続して賃上げを実施した上で低PBR0.5未満からどう脱却するかについての説明と業績目標の提示に期待しています。