1178ページ目東証プライムPBR0.5割れ企業②百十四銀行

東証プライム上場企業低PBRランキングワースト2位(2023年6月2日時点)は百十四銀行です。

香川県の第一地銀ですが明治の国立銀行の一行で現在では数少ない純粋なナンバー銀行の一角という超名門地銀として知られています。

地元では最大シェアを有していますが(38.6%)四国の他県及び四国外の都府県にも進出しており愛媛県徳島県高知県岡山県大阪府兵庫県広島県、東京都、愛知県、福岡県に店舗を有し広域展開しています。

しかしPBRは0.18倍、一株純資産は9719円、株価は1771円という破格の安値に沈んでいいます。

ここ10年の株価は2015年に4800円台の高値をつけましたが翌年の2016年に急落し2017年に反発するもその後は長期にわたって下落トレンドとなりコロナ禍で1300円台の安値をつけ2023年初頭に2000円台を回復するも再び下落トレンドで現在の1700円台に至っています。

業績に関して経常収益は2017年が好調で900億円台になるもそれ以外は800億円台の年と700億円台の年が混在し2021年のコロナ禍が直撃した年は700円台の大台を割り込んでいます。

経常利益は2014年に200億円あったのですがそれ以降は200億円を回復することなくコロナ禍で100億円割れするも直近では130億円の経常利益となっています。

基本的に長期下落トレンドですが2024年3月期の業績予測は連結ベースの最終損益で65億円の見込みとなっており過去10年の中でもコロナ禍ほどではないですが相当厳しい状況です。

有価証券の含み損益(東洋経済記事「全国地銀「有価証券評価損益」ワーストランキング」)では79位、203億円の含み益をキープしており愛媛の伊予銀行(96位2862億円の含み益)、徳島の阿波銀行(91位605億円の含み益)、岡山の中国銀行(86位461億円の含み益)ほどではないですが厳しい運用環境の中では健闘している部類です。ただし決算説明資料を見ると評価損銘柄を整理し前期比で126億円のマイナスになっており来期以降はどうなるかわからない状況です。

近隣県の第一地銀との比較ではフィンカム記事【2023年最新】地方銀行をランキングでまとめてみた 預金残高、貸出金残高、預貸率、自己資本比率不良債権比率のランキングを見る限り預金及び貸出金で中国銀行伊予銀行に及ばず預貸率では伊予銀行に14.59%の差がついています。

自己資本比率も2023年3月期は伊予銀行が14.32%、中国銀行(ちゅうぎんフィナンシャルグループ)は12.87%に対し百十四銀行が連結ベースで9.10%と2ケタと1ケタという差がついています。

新中期経営計画も確認しましたが内容的には他の地銀とそう大差はないです。ビジネスモデルが似たようなものなので仕方がない面はあります。

3つの変革の推進でSX、HRX、DXが挙げられていますがあちこちで流行中の何とかX、電通国際情報サービスのAtoZのXが並んだ広告を連想しました。

X化というとXを掛け算記号で考える人は既存の強みを掛け算でより強くする、方程式のXと考える人は最初から最後まで何だかよくわからない不安要素、バツマークと考える人はかえって業務内容を見えづらくして分かりにくくし社内を混乱させる迷惑な改革ごっこといった捉え方をするかもしれないです。

社内外でSX、HRX、DXは老若男女きちんと浸透できそうなのか?流行りのかっこよさげな意識高い系ワードを使うなとは言わないですが「創ろうイイヨ」が「取り繕うのはもうイイヨ…」にならないようにしてもらいたいものです。

まさかとは思いますが2018年のセクハラ(日経記事「百十四銀会長が辞任 女性行員への不適切行為を防げず」)や2019年の情報漏洩(百十四銀行ニュースリリース「当行元行員の逮捕について」)のような問題はもうないですよね?

前中期経営計画もトライミライ、トロイメライに掛けてコロナ禍の辛い時期でも夢を見ようという、夢に挑戦しようという意気込みだったのかもしれないですがサブタイトルはともかくとして業績目標の水準が気になっています。

2026年3月期の業績目標を見ると当期純利益で85億円以上ということで過去10年の実績と比較しても相当保守的な目標であることを考えると香川県経済は今後3年間でかなり厳しい状況なのではないかと思わなくもないです。

そしてこの業績では株価の回復も難しい、過去10年間の最高値ですらPBR0.5割れなのでこの業績見通し通りなら低PBR解消は無理ではないか。

香川県内でのシェア40%を目指すとのことですが他県はどうするのか?

岡山、愛媛、徳島といった隣の県に支店が多いのは分かる、西日本と東日本の中心である大阪や東京に1店舗ずつぐらい持つのも分かるのですが広島、愛知、福岡に店舗を置く理由が不明です。

というか広島や兵庫を瀬戸内圏内とするのはともかく福岡については大都市圏のセグメントに入れた方が適切だと思う、東日本にいるからかもしれないですがなぜわざわざこのセグメントにしているのかもよくわからないです。

決算説明資料で2023年3月期の東京、大阪、愛知での融資は8852億円で融資残高の26%を占めていますが瀬戸内周辺はともかく大都市圏での情報収集力がどの程度あるのかも不明でいったいどういう与信管理になっているのか越境融資のリスクを考えると懸念材料です。

上述の「当行元行員の逮捕について」の元行員が勤務していたのも東大阪支店でしたが遠隔地の支店ガバナンスは大丈夫か?内部統制はきちんと機能しているか?

2022年3月期のKAMも確認しましたが情報収集力が地元金融機関に比べて劣るアウェーの地域での与信管理はどうなっているのかについてもっと詳しい説明が欲しかったです。

減少傾向にある有価証券の含み益も気になるのでそれについてもKAMで取り扱ってほしかったのですがあまりにもKAMが形式的過ぎて参考にならないです。

国土交通省「四国圏の強みと弱み」も確認しましたが自然や文化、農業に光るものがあり工業も瀬戸内海沿岸や大阪の対岸は製造品出荷額1000億円の地域がありニッチな分野でトップをとる企業もある反面で交通インフラの不便さや本州大都市圏とのアクセス、産業集積の弱さ過疎化の進行を考えると四国で天下をとっても「鳥なき島の蝙蝠」になると思ったので愛媛や徳島といった同じ四国内の地域でなく対岸の岡山や兵庫、本州の大都市に支店を構えて本格進出しようとしたのでしょうか。地元のシェアをしっかり押さえて伸び悩みしているのであれば県外進出も選択肢に入るとはいえそもそも百十四銀行自体は名門ではあるのですが地銀全体で見れば対岸の中国銀行や隣の伊予銀行には及ばないせいぜい中の上というレベルでアウェーの地域に本格進出するならそれなりの投資が必要になります。

いっそトモニホールディングスのように地銀同士で経営統合してみますか?

まあ名門のプライドでウチが主導権をとれない再編は絶対にやらない、22世紀も百十四銀行の名前は残したいと思っているのであれば他行も経営統合を検討するにあたって百十四銀行は最初から候補にいれないかもしれないですが。

もっとも経営統合以前にやることがある、支店のガバナンスが弱いことも元行員の不祥事で明らかになりましたがガバナンスをきちんと改善しなければなりません。

そのうえで業績も改善が必要、過去の株価と業績水準からすれば2014年や2015年を超える水準の業績でなければ株価も5000円台は超えられないと思われますが2030年には当期純利益で最低でも120億円程度、経常利益で240億円程度、経常収益で1000億円台を実現しないと極端な低PBRからは脱却が難しいんじゃないかと思います。