1176ページ目 東証プライムPBR0.5割れ銘柄の検討②

さて今回は破格の割安価格で放置されている銘柄が極端に多い地銀業界について考えて見たいと思います。

ぶっちゃけ日銀の異次元金融緩和で金利が低下し銀行がお金を貸しても儲からなくなった、地方の過疎化で地域から離れられない地銀を買うメリットがない、金融緩和で積み上がるも貸出先がないので代わりに購入した外国債券価格が世界の金利上昇で含み損を抱えたといった状況が主な理由でしょうね。

 

全国地方銀行協会のサイトを見ると2022年3月末で地銀の預金は約318兆円、貸出金は約238兆円、有価証券が約75兆円となっています。

都銀も含めた金融機関の預金及び貸出金のシェアは地銀がそれぞれ全体の25.3%と31.6%あります。

預金のうち68%が個人、25.2%が一般法人で5.7%が公金です。

貸出金に関しては中小企業が43.1%、個人が28.2%、大企業13.4%、地方公共団体が2.1%です。

預金も貸出金も個人や中小企業が多いですが2022年8月に出したパンフレットを確認すると地銀は地域の一体的面的支援、地域商社などを活用したブランディングや販路開拓支援に積極的に取り組む、人生100年時代におけるお客様本位の業務運営で資産形成や相続の対応、ポストコロナの営業体制を整備し安心安全な金融サービスを提供すると言っています。

なお全国地方銀行協会の会長は千葉銀行の米本頭取ですがついこの間に仕組債の一件で行政処分千葉銀行が受けています(日経記事「監視委、千葉銀など3社への処分を勧告「重大な問題」」)。

お客様本位の業務運営とかどの口が言っているんでしょうか?

業界団体の会長からして大嘘を言うあたり地銀業界は本当に大丈夫なのか?と不安になってくる、安心安全が遠のいていくような気がします。

地銀業界の分析は日本総研の「厳しさが増す地域銀行のビジネス環境と求められる収益基盤の強化」というレポートがありますがこれを読んで地銀株は数値的には割安だけど買うのはやめようかなという気持ちがより強くなりました。

地銀の経常利益の推移のグラフを確認すると2009年から2015年までは伸びていますがそれ以降は右肩下がりです。

コア業務純益アベノミクス以降減っていますが2012年の時点でも元々預金金利は0%に近く金利を下げても預金の調達コストはそれ以上下がらない一方で貸出金利は下がったので利ザヤも小さくなったためです。

金利収益を強化しようとはしていますが手数料などの役務取引等利益は2010年代半ば以降横ばいです。

未利用口座の維持管理手数料、紙の通帳口座廃止、両替手数料値上げ、他行あて振込手数料値上げ、ATM手数料値上げ等々の涙ぐましい努力というか顧客サービスの廃止はやりましたがそこまでやっても儲からなかった、コストカットに対する貢献が小さかったという状況です。

店舗も役職員も業界全体では減少傾向にありますがリストラをやってもコストカットが追い付いていません。

このような顧客サービスが縮小し不便になり状況でネット専業銀行や異業種企業によるフィンテックサービスが続々と地域の金融サービスに新規参入してきましたがますます地銀から顧客が離れていきやすくなり地方の殿様企業として一手に金融業務を独占できると環境ではなくなりました。

そしてコロナ禍の制限緩和で金融も平時モード復帰が求められるようになり資金需要が減少ことも見込まれゼロゼロ融資の処理が問題になっていますが(読売新聞記事「コロナ禍の「ゼロゼロ融資」42兆円、「息切れ倒産」頻発…返済不能なら税金で穴埋め」ヤフーニュース)直接的には地銀が損をしないとしてもゼロゼロ融資とは関係ない顧客に連鎖倒産が波及するリスクも考えられます。

もちろん融資の全てがゼロゼロ融資というわけでもなく公的保証のない通常の貸し出しもあるのでこの貸し倒れリスクが懸念されます。

経済が成長しなかった30年でも地方銀行は未だに一県一行主義の時代が継続し最低でも一つの県に1行は地銀がある、県によっては第2地銀もある状況なので過当競争に陥っており地域内で貸し出しができない分は他県の企業に越境融資するケースも増加しています。

ただ地銀は本店がある県のことなら詳しいけど他県のことまでは詳しいというわけでもなく越境融資は融資先に足元を見られたのか銀行側もノルマがあるのか金額的にも大きくなりがちな傾向があるようです。

情報不足の状態で貸すので貸し倒れリスクも大きくなりがちです。

貸し倒れリスクに関しては監査報告書のKAMでもきちんと行った旨の記述があるのですがこれがまたボイラープレートというか判で押したように同じような内容、かつ、KAMの個数も1個というケースばかりとなっています。違うと言えばアパート不正融資問題で話題になったスルガ銀行がそれ関連のKAMが記載されていたぐらいでしょうか。

貸し倒れリスクの見積もりでちゃんとやったと言われても地域毎の経済状況について会計監査人はどう判断したのか?フォワードルッキング引当を導入した銀行についてはどう対応したのか?リスクの高い越境融資のリスクは具体的にどう見積もったのか等々もう少し詳しく書いて貰わないと本当にちゃんとやったのかどうかわかりにくいです。

地方ごとに特色は様々なのに地銀ビジネスは監査報告書も含めて判で押したように同じというのではなかなか復活は難しいのではないかと思う、というかさすがに多すぎるので統合は不可避でしょうね。

融資に関しては人口減少が止まらないのもあって今後も厳しい環境が継続しそうですが米国など世界の金利上昇で地銀が抱える債権の含み損も2兆円に迫る勢いで拡大している(日経記事「97地銀、債券含み損1.8兆円 世界で金利上昇 前期、1年で5倍に」)のも地銀株を買いたくない理由になります。

世界の金利がどう動くかで地銀が保有する債権評価も変わってきますが感度分析で金利がどう動くかシナリオ別に開示してほしいものですが東洋経済記事「全国地銀「有価証券評価損益」ワーストワンキング 約半数が含み損、影を落とす損失発生リスク」に各行ごとの評価損益が出ています。

米国債だけでなく個別企業の株式を持っている場合もあるので評価損益がものすごい黒字になっている京都銀行のような地銀もありますが債権に関しては厳しい、山陰合同銀行のように1行で500億円を超える評価損を出す地銀もあります。

経営危機に陥り救済で買収されたクレディスイスがAT1債を無価値にした話もありますが今後同様の話がまた起こらないとも限らない、地銀がどれだけAT1債を保有しているかは不明ですがこれも保有しているならリスクについて説明はしないと投資家も不安に思って地銀株の購入は見送るでしょうね。

各県それぞれの産業や景気もあるので銀行ごとに個別に見てみるのも大事なのですが基本的に金太郎あめのビジネスモデルで構造的に立ち行かない状況になっている点は大きなマイナスです。

その地域が不景気だからと言って逃げられるわけでもない、過疎化からも逃げられない、金利を上げれば上げたで今度は景気が冷え込んで利ザヤは増えても融資できる案件が減ったり企業倒産で貸し倒れが増えたりとゼロ金利を維持してもやめても結局地銀は儲からないという状況はもはや詰んでいる状況です。

地銀はいったい何行生き残ることが出来るでしょうか…