1169ページ目 アツギ

プライム市場に残れそうもない企業第11回目はアツギです。

この会社は主に女性向けの下着やストッキング、靴下等を製造している老舗ですが東証プライム低PBRランキング(ヤフーファイナンス6月2日終値時点)で銀行業を除く事業会社でワースト1という状態です。

PBRは0.21、株価は411円でPBR1倍なら株価は5倍になっていなければなりません。

過去10年の株価推移では2017年3月に瞬間的に1520円の高値をつけたのですがそれでも現在の一株純資産1930.44円を下回っています

昨年6月29日付で出た「上場維持基準の適合に向けた計画に基づく進捗状況および計画書の更新について」には2022年3月31日時点の流通株式比率は64.2%、流通株式時価総額は64.5億円でしたが当時の株価は600円台です。

流通株式比率に変化がないなら2023年6月2日の時点で流通株式時価総額約3分の2になっており「中期経営計画『ATSUGI VISION 2024』で目標とする2025年3月末までに流通時価総額100億円の達成、目安として900円以上に株価を上げなければ無理、2年以内に現状から2倍以上に引き上げる必要があります。

なお過去10年の株価推移を見る限り最後に900円台だったのは2019年8月でした。

さて上述の中期経営計画ですが2023年5月11日付で「中期経営計画の見直しに関するお知らせ」が出され2025年3月末における目標売上高は272億円から255億円、連結営業利益は16億円から12億円に引き下げられており当初の計画が縮小しています。

当初の中期経営計画が前提の上場維持基準適合に向けた計画に関しても修正はないのか?と思ったのですが6月5日時点でアツギから上場維持基準適合に向けた計画の見直しに関する開示はないです。

中期経営計画の未達の原因として為替の急激な変動、原料高、原油高、物流コスト上昇、最低賃金引上げ、リストラ費用、収益構造におけるコスト肥大化、売り上げ不振、市場価値と価格設定の乖離が挙げられていますが2023年以降も日銀の政策を見る限り円安傾向は続きそれに伴って原料や電気代もかかる、物流も逼迫しているので運賃も上がる、最低賃金は中国子会社に集約したものの海外とて賃上げしなくていいといった話もない、コロナ禍制限緩和でストッキングや靴下の需要も幾ばくかは回復が期待されるが日本国内市場は少子高齢化で販売量の大幅な増加はよほど革新的な新製品でも投入しない限り増えにくい、2023年5月11日付の決算短信でも触れられているが物価高に伴う節約志向で高級ストッキングや下着、靴下とて苦戦が想定される等、先行きは明るいとは言えない状況にあります。

というか過去10年の決算を見ても2011年3月期に営業利益16億円を記録して以降、ずっと営業利益12億円を超えた年は皆無であり2025年3月期に10年以上も未達だった業績を達成できれば奇跡と言っていいレベルです。

その営業利益16億円の時代とて繊維業界自体が斜陽産業と見られている時代で1単元1000株が標準だった時代は株価100円割れで推移する時期もあり目標株価900円以上といっても1単元100株なので目標自体は低いはずなのですがそれでも今のアツギにとっては困難ではないか。

今さらになってEC強化プロジェクト発足と言っていますがそういうのはコロナ禍前の段階でやってほしかったです。判断が遅い。

コロナ禍の最中に破綻したレナウンの下着部門子会社レナウンインクスを完全子会社化していますが高級衣料品を扱う名門レナウンの部門を割安で購入できるチャンスに動かない手はないと思ったのか?当時いつまでコロナ禍が続くかどうかわからない状況下での企業買収はどうかと思ったのですが紳士インナーウエアに関しては高価格帯が軒並み苦戦する中でも堅調に推移していると2023年5月11日付の決算短信にありました。

2024年度に紳士インナーウエアで7億円の売上を目指す目標は変わっていないようですが元々定評があったレナウンインクス部門の力を引き出すことが出来れば2021年度の1億円から7倍にすることも無理とまでは言いません。

ただ金額的に力不足感は否めないです。

ヘルスケア事業も面白そうですが2024年度売上高3億円では規模が小さすぎます。

ゴキブリ企業どころか6期連続の赤字、売上営業損益率も-17.1%から-9.2%に改善したとのことですが(株探記事「アツギ、今期経常は赤字縮小へ」)結局当期も赤字です。

というか本当に当期は赤字縮小できるのか?本来なら2023年3月期こそ2億円の黒字にできるはずだったのに第3四半期で前年並みの2桁赤字に下方修正しており(日経記事「アツギ、通期の最終損益予想を下方修正 2億円の黒字から14億円の赤字に」)本当にできるのかどうか疑わしいものがあります。

役員報酬減額は当然ですが復配の目途も経ちそうにない状況でもまだプライム上場維持を目指すのでしょうか(なお復配が困難でも社員の給料や下請けへの報酬はきちんと上げなくてはならない。さもなければ士気もアツギの強みである品質も維持できなくなるだろう)?

今後は原価低減や販管費削減でコストカットを進めていく、アツギ東北の2工場を閉鎖していますがたしかに人件費や製造コストは重かったもののメイドインジャパンのブランドが使えなくなる分のマイナスはどの程度考慮したのか。

中国子会社に製造を集約するとのことですがいざ台湾有事が起き中国と日本との物流に制約が生じた場合における物流コストについてはどう見積もったのか?

BCP対応で国内外の協力工場を確保するとしていますがロシアのウクライナ侵攻は1年以上継続しており非常時対応はどれくらいの期間継続できるのか?コストはどの程度かかるのか?といった点も懸念はしています。

中国市場での認知度を活かし拡大する市場で販売増を目指すとのことですが当面はともかく不買運動のリスクも考慮しなければなりません。

チャレンジ精神を推奨する、「タイツの日」の一件とか炎上案件もあったりするがそこは反省しつつも委縮することなくまたチャレンジをしたらよいと思います。

ただ2025年3月までに流通時価総額100億円をアツギが達成するのは非常に難しい、解散価値に着目したファンドが現れ投機的な値上がりが発生すれば瞬間的にPBR0.5倍を超える、上場維持基準に適合するかもしれないですが後が続かないのは想像に難くありません。

チャレンジはどんどんやったらいいと思うのですがさすがに上場廃止リスクを負ったチャレンジはやめることを強く推奨します。

1947年に創業してからたった15年もしないうちに1961年には東証2部に上場し翌年に東証1部に指定替えというスピード出世した社歴がありますが60年代当時の勢いはキー局のテレビドラマを1社提供でやっていたあたり相当なものだったのでしょう。

その時代の熱さを知っている人からすれば今の状況は寂しさを感じるものがあるかもしれない、スタンダード市場移行は受け入れ難いとは思うのですが半世紀以上続く上場自体が困難になる状況は避けてほしいものです。

【頑張る人よ】新しく動き出す、77年目のアツギ。|コンセプトムービー|フルバージョンはyoutubeで確認しましたがコロナ禍の制限が緩和されたタイミングとも合っており一歩踏み出したい人が勇気づけられるかもしれない動画ではあります。

アツギも喜寿を迎えましたがこのタイミングでプライム上場維持が難しくなっている状況は冷や汗が出る、業績悪化に躓いてへこたれているであろうことも想像に難くないですがスタンダード市場で新しく動き出す頑張るアツギに期待しています。