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プライム市場に残れそうにない企業第7回目は東京一番フーズです。

ここはフグ料理店のチェーン店として1996年に設立後、10年でマザーズ上場、2015年には東証1部昇格を果たしています。

2021年12月15日付で出した新市場区分「プライム市場」の選択申請および上場維持基準の適合に向けた計画書では2028年9月期末までに流通時価総額100億円を達成するとしていますが2021年6月末の流通時価総額は23.8億円、2023年2月24日時点での非流通株式を含む時価総額は約44億円となっており明らかに流通時価総額100億円は遠いです。

なお流通時価総額拡大のため2022年12月13日に立会外分売で社長の坂本氏が支配株主でなくなったのですが立会外分売を行う旨の開示が出た途端に株価は急落し一株600円弱だったものが500円弱にまでになっています。

ここも外食産業でコロナ禍の影響が大きかったのは痛いですが2021年末時点で2022年9月期以降は新型コロナの影響も収束に向かいつつあるとの予想は正しかったと言えます。

ただしフグ料理店と寿司店は2026年9月期にコロナ禍前の業績に復帰するとの想定です。

世界一の魚食カンパニーを目指すということでフグ料理以外も行う、コロナ禍の2020年6月に買収した寿し常や養殖事業の強化及び海外輸出により多角化を進める計画となっています。

さて計画の進捗ですが2022年9月期の売上高自体は買収した寿司店の効果もあってかコロナ禍前の2019年9月期を上回る60億円を確保しているものの営業利益は赤字でコロナ禍の影響が残っています。

それでもフグ料理店という上期偏重のビジネスモデルで2022年12月の冬は第8波はあったものの行動制限は行われず2023年9月期第1四半期で前期より売上を3.5%増やしています。ただし時短助成金廃止の影響は大きく経常利益は大幅な減益です。

今後の忘年会新年会需要がコロナ禍以後どうなるかは不明ですがコロナ禍前に戻らない所もあるので需要が特定の時期に偏るビジネスモデルを改革するのは妥当でしょう。

コロナ禍初期の緊迫した社会でずいぶんと思い切った買収を行っていますが寿司店の再建に成功すれば新たな収益の柱になる、スタグフレーションの日本より期待できる海外市場を強化するのもよいです。

しかし経過措置はあくまでも経過措置でありしかもコロナ禍による行動制限が撤廃された状況では2025年3月をもって終了せざるを得ず2026年9月期にコロナ禍前の通常の業績に復帰する計画ではスピードの遅さが否めないです。

そもそもスタンダード市場上場企業の時価総額としても中位の企業であり経過措置をあまりに長期にわたって維持するのは公平性の観点から適切とは言えず本来のプライム市場上場維持要件を満たすのが5年以上先という計画ではいったんスタンダード市場に移動して貰わざるを得ないです。

株価に関してもここ10年を見ると2015年1141円の高値をつけていますがコロナ禍前でさえ株価1000円に遠く及ばない状態が継続しています。

流通時価総額100億円を目指すなら一株1000円でも足りないですが国内のフグ料理店の好業績では明らかに不十分で3年前に買収した寿司店や海外事業、養殖事業が市場の想定を上回る爆発的な伸びを見せない限り一株2000円を目指す展開にはなりそうもないです。

М&Aオンライン記事「コロナ禍の中、寿司チェーン買収に踏み切った「東京一番フーズ」の勝算は」も確認しましたがフグ料理店という特定の時期に偏重したビジネスモデルから6次産業化で生産から販売まで全て行う総合水産業を目指す計画自体は先細りの日本での忘年会新年会需要頼みの経営からの脱却という点で評価できます。

ただ残念なことにこの種のビジネスモデルを抜本的変革はどうしても時間がかかります。

買収した寿司店も元々コロナ禍前から業績不振だった企業で競争が厳しいのはコロナ禍後も変わっておらず寿司店の業績を計画通りに改善できるかどうかも未知数です。

2025年3月に経過措置終了しその後1年経った2026年3月の時点でもどうなっているかは不明ですがコロナ禍の2020年6月に破綻した寿司店を買収するあたり相当な逆張りです。

自社のフグ料理店だってどうなるかわからない中で異業種とはいえ飲食業の買収に踏み切るのはとてつもなくリスクが高すぎる意思決定だと思いましたがこの種の逆張りは当たれば成果は大きいですが外れれば損失も大きく社内外の反発も決して小さくないかもしれないません。

「人の行く裏に道あり花の山」とは言うものの花があると思って裏道に進んだら花の姿形もないばかりか道に迷って遭難することだってしばしばあるので裏道を進もうとする案内者を止めるのは普通の判断、特に企業経営だったら一人だけが損をして済む話ではないので慎重になるのも当然です。

リスクを取ったチャレンジを行う必要はある、売り上げが特定の時期に集中するフグ料理店頼みのビジネスモデルからは脱却の必要があり別事業を第2の収益の柱として育成しなければならないのも言うまでもないことです。

ですが2023年現時点でこそコロナ禍からの正常化の兆しを見せているものの2020年前半のような時期に失敗すれば組織ごと致命傷を負うようなリスクをとるのはさすがにお勧めはできないです。

フグ料理店の止血がいつになるかも見通せない状況でさらに損失を広げるリスクのある意思決定をするのはあまりにもリスクが高すぎます。というかちゃんと議論はできたのでしょうか?

河豚は食いたし命は惜ししとはよく言ったものですがコロナ禍発生から半年も経たない期間で緊急事態宣言により投資家との対話や社内の議論も容易ではない状況においてビジネスモデルの骨格が変わる意思決定を行う点は業績や株価面よりガバナンスの点で心配になってきます。コロナ禍が収束してきたのでよかったよかったで見過ごすわけにもいきません。

それでも腰を据えてビジネスモデルの変革に取り組むならスタンダード市場に移動し敢えて流通株式比率を現状維持にして安定株主を確保するのも一つの方法です。

スタンダード市場で構造改革に取り組み6次産業化が軌道に乗った段階でプライム市場に再チャレンジするのが妥当だと思います。