1070ページ目 ワッツ

プライム市場に残れそうにない企業6回目はワッツです。

100均大手で業界4位の企業ですが2022年11月28日時点付けの「上場維持基準の適合に向けた計画に基づく進捗状況について」を確認すると2022年8月末時点の流通時価総額は52.7億円で流通株式比率は51.8%、2023年2月24日の時価総額は約95億円ですが流通株式比率51.8%なら流通時価総額は約49億円となります。

2024年8月期までに流通時価総額100億円を達成すると言っているので期限はあと2年を切っていますが本当に大丈夫なのか?

株価に関しても過去10年で一株1200円を超えていたのは2013年と2017年2018年ぐらいですが当時以上に経済環境が厳しく同業大手との差も広がる中で株価倍増を実現するのは相当難しそうです。

2024年8月期の目標売上高は700億円、営業利益21億円を目標にしていますがワッツの2023年8月期業績見通しは売上高3.7%増の605億円、営業利益7.8%減の9億2千万円となっており(日経記事「ワッツの2023年8月期、純利益32.1%減」)計画通りなら来期は売上高16%増、営業利益は2.3倍にしなければならないです。

2022年8月期の売上高は前期比15.1%増なので一見すると何とか達成可能だと思わなくもないですが2022年8月期の業績は前期にМ&Aで取得した子会社の業績が通期寄与した分も含まれています。

年間200店の出店、既に先行投資したシステムによる生産性向上、買収子会社の原価率改善とシナジー効果創出、ネット販売強化、100均以外の業態拡大、海外含むМ&Aを行うとしていますが2013年からの売上高推移を開示情報で確認した限りМ&A子会社の売上通期寄与があった2022年8月期以外の年度で売上高前年比15%以上の増加を達成した年度は皆無でした。

М&Aを行わない限り売上高16%増は難しいのではないでしょうか。なおコロナ前は毎年2%から4%の売上高成長率だったので地道に安定成長を継続出来れば2年後は無理にしても5年~6年後ぐらいに売上高700億円は達成できるかもしれないです。

営業利益に関してもこの10年で20億円を超えていたのは2013年8月期のみ、いかにアベノミクスによる円安が100均業界4位のワッツにとってはマイナスに作用したかが如実に伝わってくるのですがスタグフレーションで家計の節約意識が高まっている点は顧客増加にとってプラスに作用する一方、円相場が再び1ドル150円台になろうものなら元々薄利多売の100均業界なので大量仕入れやデジタル化等の経営合理化の効果も吹き飛ぶリスクもあり得ます。成長戦略が見えにくい、市場から適正評価を受けていないも何も円安デメリットや100均という価格を上げにくい業界特有のリスクを懸念する投資家もおり株価が上がらないのも無理もない話です。

海外事業に関しても2018年8月以降右肩下がりで4年後の2022年8月期はほぼ半減という散々な有様です。主にタイとペルーですが今後どうやって成長を確保するのでしょうか?

過去の実績を見る限り自力での業績目標達成は難しい、М&Aで子会社を増やして売り上げを増やしつつ投資抑制やリストラ等でコストカットを行えば短期的には業績目標をクリアできるかもしれないですがその後が続くかどうかは甚だ怪しいです。

市場再選択をせずこのまま2024年8月期に業績目標をクリアして流通時価総額100億円を引き続き目指すとなると社内のプレッシャーは相当キツイことになりますが社員はその経営方針についていけるのでしょうか。

無理な業績目標でブラック化しては中長期的な経営にとってマイナスですがバイトチェックの口コミも確認してみたら中には売り上げのプレッシャーが厳しい、人手が足りない、社会保険に入れないシフトを組ませる、社員クラスがやるべき仕事をバイトに丸投げする、賃金が安い等々出てきました。実際のところどうなのか不明ですが薄利多売の業界の傾向としてなるべく人を雇わず賃金も上げないビジネスモデルなのでワッツに関しても人手不足と仕事の割に賃金が安いと感じる人は少なくないのかもしれないです。

そんな状態でよりプレッシャーをかければ人手不足の売り手市場で会社の「代わりはいくらでもあるんだよ」という状況においてよりいっそう人材が集まらなくなるリスクもあり無理な業績目標による社内の疲弊を懸念して投資を見送る投資家も出てこないとも限りません。

М&Aにしても2024年8月期に流通時価総額100億円達成の目標を下ろさないなら2024年8月期に通期業績寄与しそうな企業を2023年8月期に高値づかみして後々でのれんの減損という残念な結果になりかねない点も懸念しています。

プライム上場の看板は価値がありますが無理に維持しようとして社内を疲弊させては元も子もないです。経営理念は「おかげさまの心」を大切にお世話になっている皆様に役立ち社会に貢献することを使命とし皆様と一緒に成長していくことを目指しますとのことですがそういうことなら賃金を上げろと思っている社員やバイトも少なくないのでははと思います。

百均業界はダイソーとセリアの二強で3位のキャンドゥはイオン傘下に入ったが独立路線でやっていくならいくらローコストオペレーションでやるといっても人件費でケチって社員やバイトに逃げられる経営をやっては生き残りも難しくなりそうです。

円安や原材料の高騰がいつまで続くかどうか不明ですが劇的な業績の改善は期待できない以上、一旦スタンダード市場に移動して地道にデジタル化や買収子会社とのシナジー効果追求、海外事業の立て直し、人材採用と研修の充実化による人材力の向上等、売上は毎年3パーセント前後の成長を目標にしつつデジタルや人への投資を継続しつつ経済全体の環境が改善した時、円高でも高く売れる製品を海外に売り込む企業が増え賃上げと輸入コストの下落の両方を同時に享受できるようになるタイミングに再びプライム市場上場にチャレンジするのが妥当と思います。