1065ページ目 岩崎通信機

プライムに残れそうにない企業3回目は岩崎通信機です。

まさか戦前からの名門企業が東証プライムに残留が難しい状況になっていようとは思いませんでした。

岩崎通信機は岩崎清一氏が1938年に通信機器の製造会社として創業したのが始まりです(岩崎ですけど三菱財閥とはまた別の会社です)。

非流通株式を含めた2023年2月17日の時価総額でさえ約78億円と時価総額100億円に届きません。

株価に関してもこの10年で1000円台を割り込む状況がほとんどです。

岩崎通信機といえば電電ファミリーの一角で通信機器の技術力には定評があり日本初のボタン電話装置の開発、通信機器業界で初のベルトコンベアシステム導入、電気信号解析でなくてはならないオシロスコープの開発等数々のイノベーションを起こしてきました。

戦中から久我山に本社工場を構え今年で80年になりますが1世紀近くの永きに渡って通信機器業界のみならず杉並区の発展に多大な貢献をしています(すぎなみ学倶楽部岩崎通信機株式会社参照)。杉並区民として本当にありがたい企業だとは思います。

改善計画書も確認しましたが第2層の内容で同業他社との違いは不明で昔やっていたような何かの魁になるようなイノベーションで大化けしそうには見えません。

М&Aも一応改善計画書に入っていますが根本的に問題なのは失われた30年のみならず昭和後期のバブル経済時代でもイノベーションを起こせなかった点です。

これではいくらМ&Aで外からイノベーションの原石を獲得しても磨き上げることは難しいでしょう。М&Aを検討するのもよいですが自社でイノベーションを起こす、創業家以来のベンチャースピリットを取り戻すのが先決です。いっそビジネスブレイクスルー大学で学び直すのもいいかもしれません。

増配だけはしており2022年3月期は一株10円から15円増額し25円と大盤振る舞いしていますが毎年の有報を見る限り売上高は200億円台前半でここ数年安定しており極端に悪化はしないものの低位安定の状況が継続しています。

ビジネスブレイクスルーは今後の業績目標も提示していますが岩崎通信機は売り上げ目標や利益目標も提示できていません。今後も低位安定が継続する事を経営陣が一番よく理解しているからなのでしょう。

未知の分野に挑戦するので数値目標を提示することが困難なケースも多々ある、それこそ日本初のボタン式電話のような革新的な製品だったらどれだけ売れるかどうかわからないので開発当時に数字を出せと言ったところで難しいです。しかし改善計画書で提示された内容は既にありふれた内容でこの内容だったらある程度の目標数値は出して貰わないと困ります。

ESG経営をする、CGコードに対応すると言っていますがやらないとより置いていかれる要素なのでやるのは当然ですがそれは他社も同じであり差別化にはなりません。

IRを強化すると言っていますが岩崎通信機の製品がドラマや映画作品で使われていることは確認できました。

岩崎通信機 映画」で検索したらドラマ・映画貸出作品一覧が出てきて「シン・ウルトラマン」や「半沢直樹」、「女子高生の無駄づかい」といった有名作品含む様々なタイトルに自社製品の貸し出しを行っている旨の情報開示が行われています。

ただ疑問なのはこれはいったい誰のニーズなのか?これを見て株を買いたい、岩崎通信機の製品を買いたい、岩崎通信機に就職したいと思う人がいるかどうか不明、そもそもこのページにたどり着ける人がどれだけいるか不明、かなりニッチな少数派しか閲覧していないんじゃないかと思います。

まあ私はこういうのも好き、何かの拍子に話題になるかもしれずこの種の情報開示で特に大きなコストがかかるのでなければ是非継続してほしいと個人的には思うのですがこの種の情報開示による株価上昇はあまり期待しないほうがよさそうです。

さて第1層で本社コストの削減が上がっていますが忌憚なく言えば間接部門の人員削減や設備投資抑制よりもっと根本的な話、高く売れる付加価値の高い製品、革新的な製品を開発できず既存の製品の販売拡大ぐらいしか打つ手がないなら久我山本社工場は外部に売却あるいはマンションやショッピングセンター等複合施設に転換し本社工場機能は別の場所に移転するのが適切です。

経営面だけ見ればどう見ても久我山の無駄づかいとしか言いようがないです。

久我山の地価は坪単価で187万円ほどですが駅から徒歩10分以内という超好立地のまとまった土地なので再開発するとしたら引く手あまたで相当な収益が期待できるでしょう。

名門だけどイノベーションを起こせず守りに入り長期低迷する企業はよくある話ですが既に同じく電電ファミリーの一角で通信機器の名門沖電気も八王子工場を一部売却し跡地はiias高尾として賑わっています。

しかし改善計画書に一言も久我山再開発の話がないのを見る限り現経営陣が杉並で地域に根差した経営を行っていく意思を変えていないのは理解できました。その意思決定を投資家は評価しないでしょうが杉並区民、地域住民は高く評価するかもしれません。

しかし東証プライムに残るのであれば最低限流通時価総額100億円の壁は突破して貰わなければなりません。

スペックの高い女子高生が傍から見て残念な青春の使い方をしようがそれは本人の自由、本人や周囲の親しい人間関係でしかわからない価値もありその他大勢が無駄づかいかどうかを決める筋合いはないです。

一方で上場企業、特に東証プライム上場企業には年金や日銀等公的マネーも間接的に投じられ相応の収益性も求められ儲かろうが損しようがその企業の自由というわけにはいきません。

久我山のような価値の高い土地の利用方法に関しては現状で収益向上に役立っていないのであれば投資家に対し説明責任が発生します。

というか女子高生だって義務教育ではないので赤点ばっかりだったら留年の危機があり日常系学園コメディの女子無駄でもけっこうシビアな話もありました。ましてや東証プライムという日本で最も厳しい市場において数値目標をクリアできそうにないならスタンダードからやり直して貰わざるを得ませn。

何が何でもプライム上場にこだわるのも考え物で不振の本業より保有する不動産の方が価値がある企業、デパートや倉庫大手など大昔の物価水準で取得したまとまった土地を当時の簿価で計上する含み資産銘柄もあり以前にもハゲタカファンドが話題になったものだがまた同じことが起きないとも限りません。

名門の矜持としてスタンダード再指定は受け入れ難い面もあるでしょう。ただ無理に狙われやすくなるプライム市場に残るよりスタンダード市場に移行し地域密着でやっていくのも決して間違った企業経営とまでは言えないとは思います。

IRを強化するなら杉並区民、特に井の頭線沿線、善福寺川の南側に多くいる富裕層へのアピールを強化する、久我山の本社工場維持を通じて地域社会に貢献したいけど岩崎通信機東証プライム上場を維持することが地域住民の利益になることを説明しつつ協力を仰ぐのも一案ではないかという気もします。