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プライム市場に残れそうにない企業第9回目は日本金属です。

ここも戦前に創業し東証発足の1949年から上場している老舗中の老舗でステンレス等の特殊鋼の圧延に定評がある名門企業です。

それがいったいどうしたことか2023年2月17日時点の非流通株式も含む時価総額は62億円、株価は935円、PERは8.94倍、PBRは0.26倍になっています。

一体何のために上場しているのか?とことん投資家から評価されていないのが伝わってくる指標となっています。

さすがにこのPBRだと事業を前提とせず負債を全部完済して手持ちの現預金と不動産など各種固定資産を全部売却した後に残る清算価値ぐらいになるのではないかという気もしないでもないです。

日本金属の改善計画書は確認しましたがここ10年でもっとも株価が高かった2017年の水準を目指すのはよいです。

ただ最低限の基準であることを考えると安定的に3000円台は欲しいところです。

経常利益は30億円超の達成が必要となりますが経営改善までの計画期間が長すぎます。元々経過措置はあくまでも暫定的な措置であり5年も10年も暫定措置を継続するぐらいなら一旦スタンダードに移動して体制を立て直し改めてプライム市場に上場申請するのが筋というものです。2027年3月期の達成では遅すぎです。

また脱炭素関係もベンチマークとする2017年とは状況が異なり鉄鋼業界にとって逆風はより強く2017年並みの取り組みでは目標株価を達成できない懸念もあります。

日本金属の財務ハイライトで直近5年間の業績も確認しましたが売上高は500億円には届かず、経常利益はここ5年で一度も30億円を回復できず2022年3月期は20億円を下回り2023年3月期もこの分だと20億円にも届きそうにないです。

配当も2020年3月期からずっと無配です。

業績は良くても横ばい、何か将来を期待できそうなサプライズ的な新規事業もなく日本金属に投資する合理的な理由は皆無でしょう。

もしあるとすれば1997年に取得した田町エリアの本社ビルの売却です。いったいどういう経緯があったのか不明ですがバブル崩壊の処理に苦しむ不動産業者や金融機関から救援依頼があったのでしょうか。

東京都港区の一等地にあるこの土地だけで23億円の帳簿価額になっていますが当時の金融危機下で破格のお買い得価格で取得できたのではないかと思います。買収防衛策を導入しているが買収されたら真っ先に転売されそうな土地です。

本社機能は別の場所に移転して現在の本社は売却する、それも嫌なら賃貸に転用するのがよいでしょう。

産業新聞記事「鉄鋼新経営―2030年に向けて」も読みましたが出社率3割を達成できたのは確認できました。

テレワークの体制も整ったのなら緊急事態宣言下並みの出社率とまでいかなくても平時においても出社率は減らせそうです。

山手線の朝はコロナ禍を経ても混み合いますが通勤する場合もJR東日本で2023年3月18日から発売されるオフピーク定期券の積極的な利用も推奨されます。本社コストの改善も期待できるでしょう。

人材面では断層が生じている総合職の世代構成を補強するとありましたが平成不況真っ只中でも本社ビルは取得したのに氷河期世代の採用を抑制した経営判断が今になって効いてくるあたりバブル崩壊の呪いは未だ継続しているようです。

中途採用をしようにも人がいないのであればシニアと若手で何とかするしかないですが中堅が欠落している状況も考えると成長市場を機敏にとらえられるかは不明、熟練による市場を見る目と若手の未知の分野にチャレンジする革新性の両方のバランスがよいのが中堅世代の持ち味ですがこの点でも若手の勇み足とベテランの見逃し三振が発生し期待通りの成果を上げられないのではないかと懸念しています

変化の速さを考慮して3年以上の長期経営計画を立てるのはよいのですが中堅を欠いた状態で「ものづくり」の体制を構築せざるを得ない状況、若手のチャレンジが上手くいくことを祈るしかありませんが爆発的な成果と爆発的な失敗は紙一重なだけに2026年3月1日を目標にした流通株式時価総額100億円達成は相当覚悟したほうがよさそうです。

というか爆発と言えば2019年と2021年に板橋工場で火災が発生していますが一度ならず二度までも同じ場所で火災を起こすとはいったいどういうつもりなのでしょうか。

2019年の再発防止策が役に立たなかった、策定したBCPが機能しなかったということですがこうも事故が相次ぐようではさすがに警戒せざるを得ないです。

また設備が燃えるかもと思うとある意味PBRは当てにならないとも言えます。

5年以内に2度も同じ場所で火災を起こしているのを考えると日本金属が手狭な場所に最新鋭の設備を導入するのは非常に危ないです。

板橋区ハザードマップを見ると板橋工場はかなりヤバい、場所が場所なので高潮等水害の危険があり液状化にも弱く地震も心配、日頃の防災意識も低いのにいざ大災害が起きたら日本金属が火元になるリスクだって否定できないです。

元々関東大震災以後からの歴史ある工業地帯で地域経済への貢献も多大なのですが関東大震災から100年ということで100年に1回の大地震への備えも欠かせず事前にリスク分散を図っておくのも重要です。

追加の設備投資は板橋工場以外で行うのが適切でしょう。

とはいえ業種の特性上円安や原料高の影響を大きく受け市場競争も厳しいことを考えると汎用品の収益力低下を補って余りある高付加価値品の販売増加や新規事業が上手くいかないと2017年並みの収益力と株価の回復は難しそうです。

財務報告資料に「象の歩む道」には踏み込まないとあり価格競争でなく高付加価値品で勝負するのはよいのですが2021年に出した改善計画書の新事業アイテムで95億円、機能強化製品で65億円、合わせて160億円分の個別売上高増の進捗はどうなっているのでしょうか。

2022年3月期の有価証券報告書と2023年3月期第3四半期報告書を確認しましたが改善計画書の進捗具合が今一つわかりにくいです。

第11次経営計画では2023年時点で第2フェーズに入っており改善計画書の進捗状況を改めて説明してほしいのですが象の歩む道には踏み込まないというのであれば巨象が闊歩するプライムに踏み込むこともないでしょう。

巨額の資本が行き来するプライム市場は正に「象の歩む道」ですが今の日本金属に巨額の資本を株式市場で調達する計画がないのであれば踏みつぶそうとしてくる敵対的買収者が海外からも集まってくるプライムに敢えて留まる必要性はないと思われます。

業績と株価を見る限り錆びだらけで金属疲労を起こし動きが止まりそうな感じに見えてくる、改善計画書の蓋然性について疑問が生じてくるのですがニッチな分野で勝負したいというならなおさらプライムでなくとも構わない、むしろスタンダードの方が適切ではないか。

低PBRで買収リスクを懸念するなら流通株式比率25%で済むスタンダード市場の方が買収防衛しやすくなるかもしれません。

東証発足以来の上場だと前身の東証1部から今年で74年目の上場になりますがいくら錆びないからスレンレスだと言ったってメンテナンスは当然必要、錆びるときは錆びるのもステンレスを熟知した日本金属が一番よく理解していることでしょう。

氷河期世代の採用を抑制して無理な負荷をかけた状態が継続すれば錆びて当然、雑に扱い正当な処遇をせず腐食が進めば東証一部東証プライムの看板を支えられる強度を維持できなくなるのも無理もない話です。

組織の立て直しは非常に大変だと思いますが鉄は錆びても磨き直せば輝きと強さを取り戻します。速さ自体はゆっくりでもじっくり時間をかけて磨き直しを行いプライム市場上場再チャレンジを目指してほしいものです。