1181ページ目 東証プライムPBR0.5割れ企業④岩手銀行

東証プライムPBR0.5割れ企業第4回目は岩手銀行です。

この銀行は岩手県の第一地銀で大株主には岩手県岩手県企業局が名を連ねていますが一株純資産10664円のところPBRは0.19(2023年6月2日時点)に沈み一株純資産の5分の1未満という状況になっています。
過去10年間の株価は2015年に5000円台で2016年に4000円割れするも2018年には再び5000円台を回復しましたたがその後は長期下落トレンドに入りコロナ禍で2000円割れし直近では2000円台を回復しています。
過去10年間の業績はほぼ横ばい、経常収益は安定して400億円台ですが一度も500億円台になっていないです。
経常利益は2013年度から9期ぶりの増収増益決算に復帰できたものの2023年3月期は経常利益64億円、当期純利益53億円という水準で2016年3月期が最後になった経常利益100億円の大台は遠いです。なお2024年3月期は有価証券利息配当金の減少とデジタルと人材投資で減益を見込んでいます。
店舗は岩手県のほぼ全ての市町村を網羅し東北屈指の工業都市である八戸及び東北地方の中心都市仙台と宮城県北部に店舗が多く隣県の青森市及び秋田市に1店舗、東京都に営業部を置いています。
かつては埼玉や北海道、大阪にも支店がありましたが平成不況の2000年前後に撤退済みです。
土地勘がある地元で守りを固める戦略をとっているようですが地元でのシェアは43.24%で同じく岩手県に本拠を置く東北銀行(16.7%)、北日本銀行(15.64%)を大きく引き離しています(帝国データバンクレポート「岩手県内企業のメインバンク実態調査 岩手銀行、シェア43%でトップ ~上位3行は地元銀行、シェア合計75%~」)。
北に行くほど経済が厳しくなるのか青森県勢が経営統合して南進しようにも既に岩手県に限って言えば飽和状態、シェアトップの岩手銀行でさえ経常収益で香川の百十四銀行より少ない程度の市場規模なのに岩手県には岩手銀行も含めて3行の地銀があり進出しても旨味は少ないのでしょう。

青森の津軽と仙台の伊達に対する南部の対抗意識があったりするのか(八戸は旧南部藩つながりで勢力圏内という意識でもあるのか)?と思わなくもないです。
年商50億円以上の大口顧客に関しては地銀では対応できないレベルなのでメガバンクがメインバンクとなっていますが岩手県は基本的に岩手銀行金城湯池と言っていいです。
しかし問題は地方の過疎化です。東北は特に深刻ですが岩手県都道府県別人口増減率でワースト3位となっています(総務省人口推計 2022 年(令和4年)10 月1日現在)。
岩手銀行のシェアは県内全域を網羅する店舗網が競争優位の源泉の一つですが人口減少時代にほぼ四国に匹敵する広大な地域(なお岩手県の面積は15,275㎢、四国四県の面積は18,800㎢である)で今後も店舗網を維持していけるかどうか。
鈴木財務大臣は3年間でガソリン代1412万円もかかった件に関し(週刊新潮記事「3年で地球33周分のガソリン代!「鈴木俊一」五輪担当相の四輪問題」)事実誤認との反論を行っていますが(産経新聞記事「鈴木俊一五輪相が架空経費報道に反論 「事実誤認の名誉毀損記事」」)1回の給油で174万円というのも不自然に多過ぎ、スタッフ7人が四国並みの広大な面積を持つ岩手県で東奔西走したといってもいったいどういう計算をすればたった3年で1500万円に迫る金額になるのやら…と思ったのですが銀行業など金融業務の監督官庁トップでもある鈴木金融担当大臣が嘘を言っていない、鈴木事務所のガソリン代が基準として正常な水準とすれば岩手銀行は店舗の往査等で相当なコストがかかっていると推測でき店舗網の管理は相当な負担と言えます(まさかとは思うが岩手銀行は店舗間の往来で発生したガソリン代を過少計上して経常利益を水増ししていたりはしないよな?)。
地理的に競合はしないですが百十四銀行は1,876.77㎢の香川県に本拠を置き岩手銀行の2倍弱の経常収益を上げていることを考えると営業力の巧拙より地の利が重要とも言えなくもないです。

なお香川県内の百十四銀行の店舗数は86店舗、岩手県内の岩手銀行の店舗数は91店舗となっています。

百十四銀行の支店数は多過ぎと思わなくもない、岩手銀行は店舗の絞り込みを既に行っていてこれ以上の合理化は他の銀行との支店統廃合等も視野に入れないと難しいのではないか。
都市部の景気も芳しくない、盛岡も昔はデパートが3つあったのですが松屋、中三がなくなり川徳が残ったもののその川徳も経営再建中と聞きます(朝日新聞記事「盛岡の老舗百貨店「川徳」、経営再建へ官民ファンドと協議」)。
元々デパート自体が斜陽産業でコロナ禍がとどめの一撃になったとはいえ岩手県では絶大なブランド力の川徳ですら経営危機に陥る状況では岩手県でも節約志向が強くイオンモールは賑わっても高額消費は伸び悩んでいるのではないか。
デパートの維持に必要な商圏人口は100万人と言われていますが岩手県の人口は約116万人、一関など岩手県南部の県民は盛岡より仙台に行くとして川徳一社だけなら残存者利益を得てどうにか生き延びることができるのではないかと思ってはいたのですが実際には困難だったようです。
岩手銀行も手をこまねいていたわけでなく2016年には取締役本店営業部長だった荒道氏を川徳に派遣し直々に経営再建を試みているのですが状況は芳しくないです。
エース級の人材を投入したにもかかわらず地域における勝ち組中の勝ち組でさえ生存困難な岩手県経済の先行きの困難さは岩手銀行自身が一番よく理解しているはず。
岩手県内のデパート3社は岩手県内の地銀3行の未来の姿になるかどうかは不明とはいえ過疎化が特に厳しい北東北で地銀各行が我慢比べをやっている状態にいつまで耐えられるか?

いずれ店舗の減損も重くなってくるかもしれないですが店舗の統廃合をしようにも岩手県の令和2年度における高齢化率は34.2%(内閣府令和4年版高齢社会白書第一章高齢化の状況参照)で全国的に見ても高い部類でありデジタルが得意でない高齢者が多い地域でネットバンキングを進めようにもなかなか難しい面があるかもしれないです。
地銀という業種の制約上大々的に他地域に進出するのも難しく地盤で過疎化が進行する状態では有価証券の運用に活路を見い出さざるを得ないということで岩手銀行も大規模な有価証券投資を行っており2023年3月期の時点ではまだ評価益は出ている状態にあります。
ただ2023年3月期決算説明資料にもある通り前年度から190億円減少しています。
毎日新聞記事「FRB、利上げ見送り 2022年1月以来 銀行破綻、不動産も悪化」ヤフーニュースもあり当期は持ち直すのではないかといった見方もできなくはないですが追加利上げが完全になくなったわけでもなく実際にどうなるかは不明です。
なお2022年3月期のKAMも確認しましたがここも他の銀行と同様テンプレ文章が記載されているだけでした。

1兆円を超す有価証券を運用している状況であり含み益が減少傾向にあるのも踏まえて有価証券関係のKAMもほしいところです。
越境融資に関しても土地勘のある八戸(八戸といえば三菱製紙大平洋金属の主力工場があるが両社とも経営はかなり厳しく関連取引先の経営状況も懸念される)や仙台はともかく遠方にある東京に関しての説明は重要です。
さて新長期ビジョンで10年後に当期純利益100億円、中期経営計画最終年度の2025年度に当期純利益70億円を業績目標としていますがこれもスピード感が足りていないです。
2023年6月6日付の決算説明会資料P44でも市場評価について2032年に向けて上向き矢印が力強く伸びていますが具体的な数字はないです。
岩手県の名称の由来にもなった羅刹鬼は三ツ石神社に残した鬼の手形の約束をきちんと履行しましたが岩手銀行としてはできるかどうかわからない、ものすごく頑張ってもPBR0.5に届くかどうかもわからない状態で投資家に空手形は出せないということでしょうか。まあ金融機関ができもしない空手形を振り出すのもどうかとは思います。
当期純利益100億円は2017年3月期に達成できたものの過去10年内ではこの年だけ、当期純利益70億円以上も過去10年で達成できたのは2014年3月期から2017年3月期までの4年間しかなく世界経済の不透明感や地域の過疎化を踏まえて保守的な目標を立てたのかもしれないですが仮にこの業績目標を達成したとしても過去の株価と業績データからすればせいぜい5000円台の株価にしかならずPBR1倍割れの解消はほど遠いです。
とはいえ日本ではマイナス金利な上に海外で金利は上昇、過疎化が進む地域が地盤の岩手銀行単独でやれることが限られている状態で株価を5倍にするような事業計画を考えろと言われても無理な話です。
さて北國フィナンシャルが岩手銀行に出資したとの話があり(産経新聞記事「北国、岩手銀株4%取得 システムやコンサルで支援、他地銀への投資は異例」)北國銀行は地銀再編や資本提携を狙ったものでないと言っているもののまず4%程度の株式取得で様子を見て対応を決める方針でもあるのかもしれないです。岩手銀行としてはどう対応するのでしょうか?
地理的には競合せず連合を組むには悪い相手ではなく持ち株会社による経営統合でシステム等の間接部門を統合しコスト競争力と効率性を高めて経済が縮小する地域でも持続可能な営業を行っていくのも一案ではあります。