1206ページ目 東証プライムPBR0.5割れ企業⑫山陰合同銀行

東証プライムPBR0.5割れ企業12回目は山陰合同銀行です。

島根県に本拠を置く銀行ですが鳥取県も地盤とする地方銀行です。平成令和の地銀再編で島根鳥取の地銀が合併したというわけでなく戦前に出雲の松江銀行と伯耆の米子銀行が合併した銀行で一県一行主義からすると変則的なのですが鳥取県自体が江戸時代以前の伯耆因幡が統合した県で戦前の時点では県民意識より江戸時代以前の国意識がまだ残っていた、律令制時代の出雲と伯耆を合わせて雲伯地域を意識した地銀ということで地元としては違和感がなかったのかもしれないです。

さて山陰合同銀行のPBRですが2023年6月2日時点で0.39倍という水準で放置されています。

地銀業界のPBRの低さは山陰合同銀行も例外でないのですが意外にも地銀の中ではマシな部類です。

2023年6月2日時点で東証プライム市場に上場する銀行業68社のうちPBR0.5倍未満なのは54行あり山陰合同銀行も含まれてはいるのですがPBR下位100社の中には入っていない、この時点で山陰合同銀行より低PBRの地銀は48社あるので山陰合同銀行は上から数えて20番目ということになります。

過去10年の株価を見ると他の地銀と同様の傾向はあるのですが2015年に1290円の高値をつけ2016年に600円台に下落、その後持ち直して1100円台まで回復するも長期下落トレンドに入りコロナ禍の2021年に500円を割り込む。そこから徐々に持ち直し2023年7月4日時点で800円台を回復しているが山陰合同銀行は既にコロナ禍前の株価水準を回復した状態にあります。

たしかこの銀行は東洋経済記事「全国地銀「有価証券評価損益」ワーストランキング」を見るとワースト1位の556億円もの含み損を抱えているのですが何故この株価水準なのだ?

過去10年の業績を確認してみます。

経常収益は概ね900億円前後で2023年は1126億円、経常利益は概ね200億円前後の年が多くコロナ禍の2020年3月期2021年3月期はそれぞれ162億円、144億円に落ち込んだが2022年3月期2023年3月期には200億円台に復帰し親会社株主に属する当期純利益は2023年3月期が過去最高の154億円となっています。

業績を見る限り他の地銀とは別物とも言える回復ぶりです。

同じく東洋経済「14行が赤字、全国地銀99行「本業利益」ランキング」ではワースト85位、上から数え直すとベスト15位であり含み損ランキングとは対照的な順位になっています。

2023年3月期決算説明会と資料編も確認しました。

業績好調の理由は貸出金を増やしたので貸出金利息が大幅に増加しコンサルやローン手数料等役務収益が増加したことが挙げられています。

有価証券関係は株式で33億円増えた以外は国債等、外国債券、海外金利ファンド、その他で評価損を抱えており特に海外金利ファンドの評価損が589億円も出ている状態であり損切りを行ったため有価証券残高は減少、有価証券利息も減少することとなりました。

ただ有価証券利息の減少を上回るほど本業が好調だったので過去最高益となっています。

有価証券関係がヤバいのはどの地銀も似たような状況ですが本業が好調なのは何故なのか?

島根鳥取に限定せず県外進出を積極的に進め越境融資が増加しているのが背景として挙げられます。

多くの地銀が越境融資で県外進出を行っていますが山陰合同銀行は特に顕著で店舗は広島県5店舗、岡山県5店舗、兵庫県10店舗、大阪府3店舗、東京都1店舗あり貸出金はそれぞれ5108億円、2982億円、6410億円、3301億円、7789億円となっており合計で2兆5590億円となっています。

一方島根県鳥取県での貸出金はそれぞれ1兆304億円、7538億円、合計1兆7842億円で県外貸出は県内貸出の1.4倍強に相当します。

2023年3月期も山陰地域では2022年3月期より37億円しか貸出金が増えなかったのに対しそれ以外の地域では3912億円増加しておりアグレッシブに県外展開している状況が伝わってくる。隣ではあるが山口県には進出せず山陽道山陰道を東進し中央を目指すあたりは山陰山陽11か国の太守尼子氏を連想するものがあります。

なお預金については島根県鳥取県の給与振り込みや年金振り込み、退職金獲得で安定的に集めており資料編P3の個人・法人の預金平残を見る限り預金の8割以上を島根県鳥取県で集めて県外に貸し出す、県内貸出分を差し引くと約2兆円の島根鳥取マネーが地元から流出していることになります。なお山陰合同銀行のHPで普通預金金利を確認すると0.001%で預金金利の水準は横並びです。

貸出金の地域別利回りを見ると島根鳥取は非事業性1.46%、事業性1.25%である一方で広島岡山は非事業性1.02%、事業性0.78%、兵庫大阪は非事業性1.0%、事業性0.72%、東京は非事業性1.31%、事業性0.61%であり地元の貸出金利が一番高い状態です。

第一地銀なのに福井県第二地銀福邦銀行並みに高いんですがこの貸出金利を見て島根県鳥取県より他県の方が安くお金を借りられそうなので島根県鳥取県に移住するのはどうなのかという気がしてきます。

将来お金を借りる可能性があるなら貸出金利が低いところに住むのも一案です。0.1%の違いでも1000万円借りたら1万円の利息がつくので意外と馬鹿にできないです。

情報の非対称性を考えると情報収集面で不利になる県外ほど(案の定貸倒引当金の引当率は他行より高くなっている)貸出金利回りを高くしないと危ないのではないか?と思うのですが県外で地元の地銀を抑えて数千億円規模の貸出を行うには貸出利回りを低くしないとやっていけないのでしょう。特に山陽道阪神及び東京は経済も豊かですがライバルも多い激戦区です。

案の定2023年3月期のKAMと2022年3月期のKAMを見比べると(貸倒引当金関係しかなく地銀の中でもワースト1になるほどの500億円以上という評価損を抱える有価証券関係の記載がないのはどうかと思う)2023年3月期のKAMは山陽・関西地域の貸出先関係が特に強調された内容になっています。県外でそんなに貸して本当に大丈夫か?

逆に競合相手が弱い島根鳥取では殿様商売で貸出利回りを高くしているように見えるのですが山陰両県の主要統計データや経済環境、景気動向を見る限り先行きが心配です。

北東北3県もかなり厳しいですが山陰両県も非常に厳しく県外よりむしろ県内の方が貸出金利を高くして貸し倒れに備えた方がよいとも思えてきます。

山陽・兵庫は民間・製造業主導型で山陰は公共・建設依存型の経済なので山陰より他地域の方が有望だと判断して県外で貸出を増やしたいので県内の人にはあまり借りてほしくないと内心で思っているのでしょうか?

出雲の巨人竹下青木が出雲国の経済規模は小さすぎるので国引き伝説のごとく高速道路とか兆単位の公共事業を引っ張ってきましたがその手法は個人の力量によるところも大きく国家予算の都合もあるので先が続かない。

山陰合同銀行としては先を読んでいたということか。

それでもリーマンショック以前の福井銀行の貸出金利が2%だった、そして当時としてはそれでも決して高い水準というわけでもなかったことを考えると1.25%の貸出金利でも政策的にかなり安くなっている、この貸出金利でも事業が成立しない、貸せないというのであれば地方の衰退はかなり深刻です。

島根県鳥取県はコロナ禍以前から過疎化の進行が特に問題になっている状況なので何としても県外に足場を作って生き残ろうということか。

説明資料にあるように2024年3月期にイールドカーブコントロール撤廃、2025年3月期にゼロ金利政策解除という流れが実現すれば低金利の今のうちに取引実績を作っておくことで後々の貸出金利息の大幅な増加が期待できると見込んでいるのかもしれないです(日経記事「金利操作修正「市場に配慮」」で内田副総裁は当面YCCを継続すると言っている。「当面」がどの程度かは不明で実際にどうなるかは不明である)。

自己資本比率も12.58%ありROEは4.45%ですが地銀としては幾ばくかマシな部類でありリスクをとる体力はあるのでしょう。

第一地銀である山陰合同銀行の貸出金利率を見て島根鳥取に移住するのはちょっとなぁ…と思うのですが地銀の中ではまさかの事態が起きなければどうにか生き残ることができるかもしれないです。

とはいえ県外の貸し倒れに関しては他行より引当率が多い点も気になっています。

地元で預かったお金を県外で溶かしてしまわないよう顧客の正確な会計情報の入手等で専門家の業務を利用する等貸し倒れリスクの低減を図ってほしいものです。