1199ページ目 東証プライムPBR0.5割れ企業⑪秋田銀行

秋田県唯一の東証プライム上場企業ですがPBRは0.2(2023年6月30日終値)で一株純資産8503円の5分の1という評価額で放置されておりお隣の岩手銀行とはどんぐりの背比べ状態になっています。

過去10年の株価を見るとここも他の地銀と同様の値動きで2015年に4400円台の高値を付けるも日銀のマイナス金利導入で2016年に急落し2500円台になるも徐々に持ち直し2017年には3900円台まで小回復、ただ2017年末に大幅下落してからは下落トレンドが長く続きコロナ禍では1400円前後で地を這う展開となり2023年春にようやく2000円台を回復したと思ったらまた下落し6月末の時点で1671円という状態です。

過去10年の業績は国債を売却した2016年3月期と国債や株式の売却益が少なかった2022年3月期以外は概ね400億円台の経常収益を確保していますが経常利益は2015年3月期に116億円あったのを最後に1度も100億円台に達した年はなく2023年3月期は経常収益468億円経常利益49億円という業績です。

当期純利益もコロナ禍前の2019年3月期までは40億円以上ありましたが2020年3月期以降は30億円前後に留まっており2023年3月期は2022年3月期と比べて3.4%増の32億円という水準でほぼ横ばいとなっています。

配当金は4%ぐらいだから優良株じゃないかといった見方をする人もいるかとは思うのですが問題は内容です。

2023年6月5日付の2023年3月期会社説明会資料は確認しましたがかなり厳しい経営環境に置かれていると言わざるを得ないです。

上述の通り当期純利益は微増益でしたが外債や海外投信を損切りした分を役務収益やコストカット、株式売却益で埋めたに過ぎないです。

そして本業の利益、役務収益と貸出金利息から経費と預金等の資金調達コストを差し引いた金額は2023年3月期においてマイナス10億円、2022年3月期と2021年3月期はそれぞれマイナス22億円とマイナス24億円だったのでかなりマシにはなったのですが赤字は赤字、しかも黒字化は2025年3月期を目標にしていると言っており2024年3月期は本業の赤字が継続するということになります。

金利息等の資金調達コストが1億円未満でしかないのに経費は202億円かかっていて貸出金利息は156億円、役務収益37億円という状況では経費が重すぎる。

貸出金利息についてもゼロ金利政策もあって貸出金利息は全体で0.84%、1%にも満たないですが100万円借りても利息は8400円です。

秋田銀行のHPで普通預金金利を確認すると0.001%ですが100万円預けて10円、右から左に100万円を動かせば8390円儲かりますがそもそも貸出金利息が1%を切っているのは貸出先がないほど景気が悪いからであって預金は前年より931億円も積み上がる一方で貸出金平残は412億円の増加に留まっています。

中期経営計画も確認しましたがここも他の地方銀行と基本的に大差ない内容となっています。

地方創生とお客様本位、DX、サステナビリティはどこの地銀も異口同音に掲げていますが本当にできるのか?お客様本位の業務運営とか他行で問題も起きていますが本当にちゃんとやっているのか?と思わなくもないです。

県外貸出を強化すると言っていますが上場企業が秋田県内には秋田銀行も含めて2社しかなく2017年の時点で人口100万人を切り高齢化率も全国トップクラスです。

取引先を開拓するには必然的に県外進出せざるを得なくなってきますがリスク管理は大丈夫か?

貸出金1兆8978億円のうち県外貸出が5227億円となっており約27パーセントとなっています。

大企業向けが4082億円で前期比372億円増え過去5年なかった4000億円台の大台に達しましたがこのうち洋上風力発電関係で東京の大手企業にいくらか貸し出したのでしょうか。

昔のように鉱業で一山当てるのも50年前の時点で枯渇しており県内で数千億円規模のカネが動くといったら洋上風力発電関係ビジネスぐらいしか見当たりそうにないです。

圏内風力発電ビジネスの過半以上に関与しており2025年3月末までに融資実行累計額1300億円を目指すとのことですが県外分も幾ばくかは貸出を増やせそうなのか?

相手が重厚長大型の大企業グループであれば貸し倒れリスクはそこまで大きくはないかもしれないですが情報が少ない県外での越境融資のリスクは問題になっているだけに気を付けてほしいところです。

「みみより一家」は暮らしに関する情報を聞き逃さないそうですが県外の情報も聞き逃さず貸したカネはみみを揃えてきっちり返してもらわなければなりません。

一見単なるゆるキャラですがウサギやエルフ、ゾウなど耳の大きさが強調されたキャラクターを金融業がマスコットキャラクターとして採用するのは暗に借金は耳を揃えて返してもらうぞと言っているような気がしなくもないです(返済ギリギリの人はみみより一家を見て督促を受けている心境になっているのではないかと思う。なまはげのように多くの人がぎょっとする存在でなく敢えて一見怖さとは縁が遠そうなキャラクターを用いた表現により多くの人にはソフトな印象を与えつつ分かる人だけ分かる怖さで意思を伝えるのも一つの方法である)。

事業性評価融資を行うには正確な情報と関係各所とのコミュニケーションが不可欠ですが融資した後の管理についても重要なのは言うまでもありません。

アクセサリーのラビットフットは多産と繁栄の象徴にして不幸から脱兎のごとく逃げ切れるという幸運のお守りでもあります。

みみより一家のフットワークと情報入手力で貸出先の成功と貸し倒れリスクの低減を期待しています。

過疎化の進行に立ち向かうのはドン・キホーテが風車に立ち向かうような困難さがありますが洋上風力発電関係ビジネスをもってしても過疎化の進行を止められるかどうか。

一方で集まった預金をそのまま寝かせておくわけにもいかず約3兆4000億円の資金のうち約22%が有価証券投資に回っていますが他の地銀と同様に秋田銀行も運用で苦戦しており株式を中心に評価益271億円がある一方で国内債と投信その他を中心に327億円の評価損が出ています。

有価証券評価損益はトータルで56億円のマイナスですが2022年3月期は196億円の評価益が出ていたので前期より252億円損をした計算になります。

役務取引で生命保険取扱手数料やシンジケートローン関連手数料等で前期より7億円の増加の37億円で20%以上の増加率になっていますが有価証券評価損からすれば吹けば飛ぶような金額です。

行員も頑張って手数料を稼いできたと思いますが(まさかとは思うが顧客本位でない業務運営はしていないよな?)世界経済の変調とゼロ金利政策及び過疎化の進行の前に自助努力為すすべもない状況が伝わってきます。

本業は赤字で有価証券利息配当金(2023年3月期は98億円)によって辛うじて生き延びている会社では割安であっても投資したくないと思う投資家も多いのではないか。

なお2022年3月期と2023年3月期のKAMも確認しましたがテンプレ通りコロナと貸倒引当金一個しかなかったです。

有価証券の運用により本業の赤字を補い資金運用のポートフォリオ上でも8000億円近い木残高もあるので有価証券関係のKAMもほしかったです。

資料編にもROE推移がありますが有価証券利息配当金を加味した当期純利益でも2.23%、過去5年で全て3%以下となっており本業も赤字とあっては有価証券の運用次第でどうなるかわからず配当利回りが良くてもさすがに買うのは勇気がいると思うのです。

この状況ではPBR1倍割れ解消も遠そうです。たださすがにPBR0.2は突出して低い東証プライムでもワースト10銘柄に入る状況は不味いです。

秋田・岩手アライアンスについては岩手銀行側の決算説明資料でも想定通りの効果が現れていると言っていますがPBRの低さも共通、北東北の経済が厳しいのも共通です。

というか東洋経済記事「14行が赤字、全国地銀99行「本業利益」ランキング」のワーストランキングを見ると6位岩手銀行7位秋田銀行で両方ともワースト10で赤字の14行に入っています。

同じ県内にある北都銀行は黒字ですが何で差がついたのか?フィデアホールディングス傘下の北都銀行は99行中ワースト19位ですが第2地銀であり南の山形県内はともかく秋田県内では秋田銀行に分があるはず。

秋田銀行は殿様商売になっていないか?秋田銀行は今後も独立路線を継続するのかどうか不明ですがせめて本業の黒字化とPBR0.5以上は確保して貰わないと困ります。

事故を起こす前のスルガ銀行のような高金利によるハイリスクハイリターンな貸出はやめたほうがよいですが筑波銀行のように公認会計士と提携して貸出先の財政状態経営成績キャッシュフローの状況等の実態を詳細に把握した上で経営指導も含めたサービスを提供するのも一案ではあります。

厳しめの会社にも正確な会計情報を入手することによりミドルリスクミドルリターンの貸出ができれば幾ばくかは本業の利益も改善するかもしれないです。秋田銀行岩手銀行もアライアンスのまま各行独立路線で経営すると言うなら両行とも業績と株価をどう改善するのか説明はしてほしいものです。