1198ページ目 東証プライムPBR0.5割れ企業⑩琉球銀行

第二次世界大戦後の沖縄で米国が設立し軍政下で中央銀行的な役割を担った名門銀行ですが2023年6月2日時点ではPBR0.28に沈んでいます。

過去10年の株価は他の地銀同様の値動きで2015年に2000円台の高値をつけ2016年に1000円割れまで急落、2018年には1800円台を回復するも急落しコロナ禍で700円割れ、コロナ禍に伴う制限緩和期待で2023年2月には1100円台を回復するも4月には急落し900円台を推移しています。

過去10年の業績はリース会社を連結化して以降、経常収益600億円前後を維持、経常利益は2018年3月期の123億円が最高でそれ以降は80億円前後の年度が多くコロナ禍が直撃した2021年3月期は38億円まで落ち込んでいます。

なお2024年3月期の経常収益は622億円、経常利益は74億円を見込んでおりコロナ禍からは回復しつつあるも基本的に横ばいが続く見通しとなっています。

ROEは2021年3月期にコロナ禍の影響で2.0%まで落ち込むも2022年3月期には4.2%、2023年3月期には4.3%と業界標準では平均よりやや上という状況となっています。

決算説明資料でPBR1倍割れ解消を目指しROE5%を中期経営計画で達成し業界最高水準のROEを実現したいとしていますがいつ達成可能かについての目途は立っていません。

2018年並みの2000円台になってもまだPBR1倍割れは解消できない、一株純資産3321円ですが過去10年で3000円台を達成した年度は皆無です。本当にできるのか?

中期経営計画では沖縄県経済は観光業に次ぐ新たな基幹産業の創出が課題であるとしていますが立地的にこれは本当に困難です。

現状では観光と建設土木、そして米軍基地や自衛隊関係の需要で経済が回っている状態ですが製造業を強化しようにも地理的に難しく情報通信等の地理的制約を受けない業種も他の地方と同じく人材が東京に流出していくので困難となっています。

頼みの観光も円安によるインバウンド効果はありましたがコロナ禍や燃料代高騰の影響を受けやすく台湾有事が発生した場合に沖縄が巻き込まれるリスクもある、気候変動でサンゴ礁が死滅するなど観光資源の劣化も懸念され苦しい状況にあり日本は低金利、世界は金利上昇という局面でPBR1倍割れ解消を図るのはさすがに困難ではないか。

中期経営計画にある取り組みに関しては他の地銀とほぼ同様の内容なので割愛しますが他の地銀にない点で気になったのは「キャッシュレスアイランドのさらなる進化」で「台湾 悠遊カード」の取り扱いが挙げられている点です。

この台湾 悠遊カードは台湾の電子マネーとのことで那覇は福岡より台北の方が距離的に近く沖縄経済の活性化には台湾との交流の活発化が重要になってきます。

読売新聞記事「琉球銀行がカード決済事業を拡大…国内初、台湾の交通系ICカードに対応」も確認しましたが沖縄訪日客の3割が台湾からという状況では導入しない手はない。

県外事業者へ機能を提供するとありますが台湾からのインバウンドが貴重な収益源になっているのは沖縄だけでなく46都道府県も同じことであり琉球銀行が加盟するTSUBASAアライアンスでの台湾電子マネー取り扱い拡大は重要です。

台湾ではカード決済が主流となっていますが電子マネーの利用も盛んで4年前の時点でも悠遊カードは8000万枚近い発行枚数と月額使用総額400億円となっており(琉球新報記事「台湾でシェア7割の電子マネーが日本に上陸 琉銀と提携 7月から全国へ拡大」)観光客の利便性向上が期待できます。

武蔵野千葉アライアンスもTSUBASAアライアンス加盟していますが仕組債での悪だくみよりインバウンド需要取り込みで労力を使ったほうがよいです。

制約もあってなかなか難しいのですが外交窓口を強化する、昨年に日本台湾交流協会台北事務所が設立50周年を迎えましたが沖縄経済の活性化について台湾と話し合いをするのも一案ではあります。

それとフォワードルッキング引当金

他の地銀に先駆けて導入した点は高く評価できますが問題はKAMです。内容的には将来のマクロ経済指標や景気循環における足元と今後の見通しを踏まえたうえで、将来リスクを合理的に見積もる方法について記載されていましたがキーワードは「フォワードルッキング」です。

このワードを使わない文章だとせっかくKAMでフォワードルッキングな引き当てについて検討したことを説明したのに気が付かないステークホルダーも出てくるのではないか。

有価証券報告書の終わりの方に監査報告書のKAMが記載されますが有価証券報告書の1ページ目の最初から最後まで読む投資家の疲労感は考えたほうがよいです。

最初の方は一文一文読むけど後になればなるほど読み方も雑になりキーワードだけ拾って流し読みするようになる人もいますがそういう人がKAMでフォワードルッキング引当に対応した監査を行ったがどうか気付くとは限らず一瞥して監査報告書は今回もいつもと同じ内容だと読み飛ばす可能性もあり得ます。

フォワードルッキングの単語をKAMで使用しておけばフォワードルッキングで検索した人がKAMを目にする機会も増え結果的にKAMの知名度向上にもつながるかもしれません。

なお逆にフォワードルッキングの単語を知らない利害関係者もいることを考えると用語の説明もしておく必要があります。

あと会計監査人による沖縄県経済の見通しに関しても是非とも聞きたいと思っているステークホルダーもいる、本来の趣旨とは異なるとはいえ投資家以外だったらむしろフォワードルッキング引当そのものより興味を持っている人もいるかもしれません。

ESGの一環で年間の一次エネルギー消費量が正味ゼロまたはマイナスになる本社ビルを建てるのはよいのですが2025年というタイミングなのも気になっています。

本社を新築すると経営が傾くといったジンクスがありますが2025年以降に発生が懸念される台湾有事で巻き込まれる、というか逆に言えば琉球銀行の本社ビル建設が台湾有事フラグなのではないかといった考え方をするオカルト好きな人も少数ですがいるかもしれないです。

2022年4月28日付の「本店ビルの着工について」も確認しましたが耐震性能や自家発電などBCP対応を進めているのはよいのですが台湾有事が発生した場合に琉球銀行及び沖縄経済はどうなるのか?

円安によるインバウンド効果も期待できるので沖縄県の企業に投資するのも一つの選択肢ではあるのですが台湾有事が発生した場合におけるBCP対応や想定される損害についての説明は気になります。

というか台湾有事発生で観光どころはなくなりますがその場合の経済的影響、台湾が中国の手に落ちれば台湾に近い沖縄に難民が大勢来て日本円と台湾元やドル、貴金属との両替需要も発生すると思うのですが(台湾系電子マネーを使えるようにするのはその対応の一環としても重要である)対応できるのか?

サイバー攻撃やミサイルによる物理的攻撃でデータセンターを破壊されインターネットバンキングなど銀行システムが破壊されるリスクがありますが物理的攻撃も含めてセキュリティは大丈夫か?

それぞれのリスクが現実化してしまった場合の損害金額はどう見積もっているのか?

台湾有事が懸念される時世で最悪の場合に発生が見込まれる損失額の見積もりがないと投資家もなかなか沖縄県の企業に投資をしづらい面もあるのではないか。

米中対立と中国共産党の動向を見ると台湾に近い地域に投資をするリスクは意識せざるを得ないのですがマイナス要素に関してもシナリオ別の情報開示は重要だと思います。