1474ページ目 小林製薬とコーポレートガバナンスコード

紅麹サプリ健康被害が続々と出てきますがコーポレートガバナンスにも大問題があることが発覚しました。

社外役員に紅麹サプリの健康被害問題が共有されたのは3月で社会への公表直前まで知らされていなかったというのです(日経記事「「紅麹」情報共有2か月遅れ 小林製薬社外取締役に対し」)。

伊藤レポートで有名な伊藤邦夫氏ら大物社外役員がいたにもかかわらず全く不祥事防止に機能していなかったことは先日も述べましたがまさか知らなかったとは…。

もうここは完全にアウト、無原則な会社と言うしかないですね。

 

小林製薬も当然コーポレートガバナンスコードは批准していますが実質が全く伴っていないのが明々白々です。

コーポレートガバナンスコード基本原則2「上場会社は、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の創出は、従業員、顧客、取引先、債権者、地域社会をはじめとする様々なステークホルダーによるリソースの提供や貢献の結果であることを十分に認識し、これらのステークホルダーとの適切な協働に努めるべきである。 取締役会・経営陣は、これらのステークホルダーの権利・立場や健全な事業活動倫理を尊重する企業文化・風土の醸成に向けてリーダーシップを発揮すべきである。」については消費者や取引先への情報開示が遅れ健康被害が広がり死者まで出ていますのでステークホルダーとの協働は全くできていませんし、そのような問題を起こす企業文化・風土を見る限り健全な事業活動を行うための企業文化の情勢はできておらず社外役員含む取締役会や社長らはリーダーシップを発揮していなかったと言わざるを得ません。

基本原則3「上場会社は、会社の財政状態・経営成績等の財務情報や、経営戦略・経営課題、リスクやガバナンスに係る情報等の非財務情報について、法令に基づく開示を適切に行うとともに、法令に基づく開示以外の情報提供にも主体的に取り組むべきである。 その際、取締役会は、開示・提供される情報が株主との間で建設的な対話を行う上での基盤となることも踏まえ、そうした情報(とりわけ非財務情報)が、正確で利用者にとって分かりやすく、情報として有用性の高いものとなるようにすべきである。 」についても健康被害という非財務情報の開示が遅れ死者まで出ておりコンプライアンスも何もあったものではありません。

株主総会でも原因となった物質の特定ができていないと社長は言いましたがその翌日に厚労省から原因物質が公表されています。

1日の誤差がありますがこの時点で厚労省と情報共有していなかったというのも考えにくいです。

小林製薬だって化学メーカーですし調査研究能力はそれなりにあるでしょうし情報があったにもかかわらず株主にきちんと説明しなかったのは建設的な対話になっていないと言わざるを得ません。

そして基本原則4「上場会社の取締役会は、株主に対する受託者責任・説明責任を踏まえ、会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上を促し、収益力・資本効率等の改善を図るべく、 (1) 企業戦略等の大きな方向性を示すこと (2) 経営陣幹部による適切なリスクテイクを支える環境整備を行うこと (3) 独立した客観的な立場から、経営陣(執行役及びいわゆる執行役員を含む)・取締役に対する実効性の高い監督を行うこと をはじめとする役割・責務を適切に果たすべきである。 こうした役割・責務は、監査役会設置会社(その役割・責務の一部は監査役及び監査役会が担うこととなる)、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社など、いずれの機関設計を採用する場合にも、等しく適切に果たされるべきである。」も大物社外役員らが役に立っていなかった点を見る限り全くできていないと言わざるを得ません。

健康被害の公表を遅らせるというとんでもないリスクテイクが行われたわけですが情報を共有していた社内役員はとんでもないことです。

もし情報が早く公表されていれば死なずに済んだ命があったはずなのにな。

社外役員も知らなかったでは済みません。

さすがに問題があまりにも大きすぎます。

社長ら創業家役員に対し実効性の高い監督はできたのか?

小林製薬の取締役会は過半数が社外役員で一見すると模範的な役員構成です。

独立の社外役員によるけん制効果が発揮できるはずなのですがそれは情報共有がきちんと行われ社外役員も経営上のリスクを認識できていることが前提になります。

不都合な情報ほど隠蔽しようとする経営者としては社外役員とは情報共有を行わない可能性を伊藤邦夫大先生ら大物社外役員は認識できていたでしょうか?

事実上、小林家のワンマン商店の小林製薬ですが社内が大変なことになっているのに2か月も気づかなかったのはどうなんでしょうね。

煙たがられるでしょうが自分から情報を入手しに行かないと今回のように社会に公表する直前に爆弾情報を伝えられ為す術もなく大怪我することだってあるのです。

 

2月には取締役会が増配を決議していますが規定上小林製薬は株主総会決議なしの取締役会決議だけで増配できることになっています。

健康被害対応や損害賠償を考えると増配している場合ではないですがもし社外役員が健康被害問題を知っていれば増配は見送りになったかもしれません。

なにせ取締役会は社外役員が過半数ですからね。

というか取締役会の過半数に情報共有せず行った取締役会決議は果たして適正と言えるのか?

事実上社内役員だけ、特に大株主の創業家役員だけで増配を決めるというのもワンマン経営としか言いようがありません。

社外役員を過半数以上にするのが推奨されるのはこの種のワンマン経営を牽制するためであるのですが情報を共有しなかったのは情報を共有したら増配が否決されると思ったので小林社長らは社外役員と情報共有しなかったんでしょうね。

取締役の過半数が社外役員の会社については社内役員が社外役員に情報共有しないリスクがあり小林製薬に限らず社外役員に情報が共有される仕組みづくりも進めなければなりませんね。

社外役員制度が決して役立たずということはありません。

ガバナンス改革が行われず社内役員だけの取締役会だったら情報の共有はあったとしても創業家社長ら経営者のイエスマンで結局牽制ができないリスクがあります。

そもそも小林社長らが情報共有を公表直前まで遅らせたのは独立社外役員により増配を阻止される可能性を認識していた、利益誘導にとって社外役員が障害になると認識していたからなわけで脅威でないと認識していたのであれば情報は共有されていたでしょうね。

社外役員制度自体は有効な制度なのです。

とはいえさすがに問題があまりにも大きすぎますし今回の件は知らなかったで済ませて言いレベルではないです。

仮に小林家のイエスマンでなかったとしても社外役員もけじめをつけてもらう必要があると思いますね。