1360ページ目 名ばかり役員と企業献金とコーポレートガバナンスコード

コーポレートガバナンスコードで社外役員を増やしたはいいが役に立たないといった声が企業サイドから上がっています。

この種の話は昔からあって経営者からすれば経営者に都合の悪いことを言ってほしくない一方で役に立つことは何も言わず無駄な報酬は支払いたくないといった2パターンが考えられます。

 

経営者にとって都合の悪い話、耳の痛い話をするのはむしろ当然です。

円安になったが業績自体は自助努力によるものでないのを見抜かれて株価は上がらず親会社株主に帰属する当期純利益ばかり増え業績連動報酬制度にした役員報酬は上がる、そのくせ社員の賃上げは渋り労働分配率は過去最低水準かつ内部留保500兆円現金300兆円という現金ばかり溜め込む経営が多くの会社で行われています。

そういう会社に関しては特に改善が必要なのは言うまでもありません。

住友化学のような自社が掲げる代々の事業精神を無視して戦争による原油価格高騰で棚ぼたの過去最高利益を役員報酬と配当金で分配してしまい、たいした投資を行わず賃上げも不十分だった会社は特にです。

白須次郎は日本にプリンシプルがないことを憂いましたが正にプリンシプルがない経営、プリンシプルがあっても自ら無視する経営が行われているのを見てどう思ったでしょうね。

そういうプリンシプルがない経営、筋が通らぬ場当たり的な意思決定が横行するからコーポレートガバナンスコードでプリンシプルとなる原則を整備したのですがね。

それを基に役員会はもちろん投資家や社員、債権者、地域社会等々も経営者がプリンシプルのある経営を行っているかどうかチェックすることでよりよい会社経営の実現を通じ株主利益や賃上げ、社会全体の利益につなげていくことを期待しているのですけれど。

住友化学に関しては本来であれば過去最高益になった時点でその後の原油相場下落に備える、将来の種まきを行う、構造改革に手を付けるなどしなければならなかった、のですが過去最高益の決算でどれだけ社外役員も含めた役員は今後の危機について議論したのか、コーポレートガバナンスコードもですけど住友の事業精神に合致しているか否かきちんと議論したかは不明、いやその後の転落ぶりを見る限りまっとうな議論は行わなかったと考えるのが妥当です。

 

まあ取り返しがつかなくなるほど深入りした状態をひっくり返すのはとてつもなくコストがかかるものです。

社外役員としても非常に言いにくいし言われた側の経営者だって今更引き返せない時点で言われたって困ると言った話も当然あり得ます。

ですがそれでも止めるべきところは止めなければ余計に取り返しがつかなくなりますので止めないという選択肢はないですね。

もっとも本当に大事なのは引き返せなくなる前の時点、軌道修正できる時点で対応することなのは言うまでもありません。

ただここでも残念なことに社外役員も参加する役員会に上がってきた時点でもう社内的には決定事項となっていて覆すのは相当困難な案件もあったりする、しかも覆すのが困難なものほど後々の損害が大きくなるのもありがちな話です。

経営者とそのお友達の役員、インナー役員だけで意思決定を行うからそういうことになるのですがそういうインナーだけで議論している段階で社外役員も議論の動向をチェックし風向きが危険な方向に流れ出したら即座に動かなければなりません。

しかしここでまた問題があります。

手遅れになる前に動くにはそのために必要な情報共有ができていなければ動きようがないのです。

せっかく実力ある社外役員であっても結局役立たずになり下がってしまうわけです。

インナー役員の関係にも食い込んでいかないと難しい、インナー役員の会議で重要な意思決定が実質的に行われ、かつ、事実上の最終決定となる構図も正式な役員会議を形骸化させる問題があるので改める必要があるのですがそこまで出来る社外役員というのもまた少ないだろうなとは思います。

 

まあそんな感じで名ばかり役員が社内社外かを問わず多いので最初からインナー役員だけを正式な役員にして社外役員はお引き取りをという話なのでしょうがだから社外役員は不要だといった話もどうなのか。

社外役員が役立たずなのは本人だけでなく選んだ人の任命責任と活用するにあたって情報など判断を行う上でのリソースの提供が不十分だったもあります。

制度に文句を言う前にまず自社の社外役員ときちんとコミュニケーションを取ることが先です。

役に立たないのは社外役員とコミュニケーションが不十分である証拠です。

社外役員は不要と言う経営者の諸君、実質的にその社外役員を選んだのは基本的に企業側だと言うことを忘れていないか?

肩書だけは立派で何も言わない人、経営者以下インナーの社内役員が内々に決めた意思決定を覆すような話を持ってこない人は選ばないと言うのであれば住友化学東芝のような企業でコーポレートガバナンスの向上のため本来期待された役割を社外役員が発揮するのは難しいでしょうね。

もし社外役員が力を発揮したいなら普段から名ばかり役員でもOKですよ~なんて感じで昼行燈のふりをして役員として会社に潜りこみ経営者以下インナー役員を油断させて重要情報を聞き出しつつ、いざとなったら修羅場も辞さないような仕事をすることですがそんな腹芸ができる人が果たしてどれだけいることやら。

経営者だって危険人物を嗅ぎ分ける嗅覚があるから出世できたわけでなかなか昼行燈のふりをした実力者が選任されるのも難しいのかもと思わなくもありません。

しかし上場企業に限らず非上場企業その他の団体でも数合わせの名ばかり役員は山ほどいますけど名ばかりのつもりで引き受けて訴訟リスクを抱え込んでもいいんですかね。

無害な人物を演じないと就任できない、というか無害な人物しか採用しない会社もありますけど就任する以上はとにかくまっとうな仕事をしてほしいのですが。

 

そういえば最近になって自民党の裏金問題が大きくなっていますが献金した企業側はどうなっているんでしょうね。

そのあたりも関わっていることが判明したら企業イメージにとってもマイナスになりますが社外役員には弁護士会計士といった専門家が就任することも多いですね。

会計に関する話を経理その他の社員や関係者から聞いて何か思うところはなかったのか?違法性の臭いは嗅ぎ取れなかったのか?

経産大臣が架空パーティーを開催した疑惑が上がっていますが(文藝春秋記事《安倍派幹部に新疑惑》西村康稔経産相が捜査中に「架空パーティ」を開催していた!《儲けは1回数百万、経産官僚をサクラに…》ヤフーニュース)一体どこの企業が出席しないパー券を買ったんでしょうね。

そうやって政治家に恩を売って企業サイドに有利な政策を通そうとする姿勢は大変問題です。

OECDガバナンスコードでは企業献金だとか政府との取引関係の開示もあります(大和総研記事「企業の政治献金に関する情報開示」)。

コーポレートガバナンスコードを増やしまくっても結局形骸化するので実質優先でやるべきだといった話はありますがオリパラの問題だとか自民党の裏金問題だとか日本はどうなっているのか。

そもそもなぜコードが増えていくかというとルールを無視したりプリンシプルを都合よく解釈したりして会社や社会に損害が発生するからです。

事故が多発しているのに何もしないというわけにもいきません。

政治とお役所だけじゃなくて企業側にもきちんと社外役員なり株主なりチェックを行う必要があるのではないか。

経済界は巨額の法人税減税で本来一般国民に回るべきカネが税金という形で国に徴収されず企業内に留保され結果として500兆円の内部留保と300兆円の現金が活用されないままになっています。

現金の有効活用をどうするか、現金の使い道と管理をどうするか、役員報酬や賃上げはどうあるべきか等々もコーポレートガバナンスコードを積極的に利用し各項目のテーマに沿って現実の会社経営に関する議論を進めて行ってほしいと思います。