1419ページ目 正義の言いがかり

パビリオン建設が遅延し来年の開幕に間に合うかどうか怪しい大阪万博ですが大阪経済界の旗振り役である松本正義関経連会長が建設業界に文句を言っています(産経新聞記事「関経連会長、建設業界「けしからん」 万博に非協力的と恨み節」ヤフーニュース)。

正義君曰く「建設会社はけしからん。万博を成功させようというコメントはどこにもない」だそうです。

また経済界は万博の開催費用を負担しチケットの前売り券も購入しており「経済界は最大の努力をしている」「やめるとか延期するとか(言う人がいるが)、新型コロナウイルスの影響で(延期された)ドバイ万博は仕方ないが、今回は絶対に許されない」などと寝言を垂れ流しています。

 

ツッコミどころ満載ですが正義君(住友電工会長)が建設業界の事情を全く考えていない点がよく伝わってくるコメントです。

日本建設業連合会の宮本洋一会長(清水建設会長)が海外パビリオンの準備遅延に関して「デッドラインは過ぎている」との発言を受けてのコメントだそうですが円安で労働力が集まらないんですからどうしようもありません。

カネについても円安による資材高もあって清水建設は上場以来初の営業赤字予想です(読売新聞記事「清水建設、上場以来初の営業赤字予想に引き下げ…資材価格高騰で採算悪化」ヤフーニュース)。

清水建設と言えば1962年に上場して以来バブル崩壊後やリーマンショック後ですら営業赤字を回避して60年以上営業黒字を維持してきたほど堅実経営のスーパーゼネコンですがそんな清水建設ですら営業赤字は相当ヤバいです。

五大ゼネコンの一角ですらこの有様では工事の受注に関してより厳しく精査し赤字工事は削減せざるを得ません。

万博パビリオン建設のリスクは相当高くどこの建設会社も受注に二の足を踏んでいますが(東洋経済記事「大阪万博「請け負えばやけどする」ゼネコンの本音 万博の華「海外パビリオン」の工事遅れが超深刻」)労働力も資材も高騰し特に労働力に至ってはカネを積んでも技能を持った職人さんの絶対数が不足しているんですからお手上げです。

能登地震の復興でさらに建設工事の需要も発生していますが仮設住宅含む住宅建設だとか資材の運搬で職人さんやドライバーさんがより足りなくなるのも目に見えています。

万博協会の会長で正義君と同じく大坂の住友財閥の大番頭である十倉君(住友化学会長)は「被災地で進む重点的なインフラ復旧作業は、土木が中心となっている。万博会場の整備については、大半の土木事業が終わり、これから建設に入っていく段階」と言い張っていますが(ラジトピ記事「大阪・関西万博 延期、中止論に博覧会協会・十倉会長「能登地震被災地復興に支障なし 予定通りに」」ヤフーニュース)被災地での仮設含む住宅建設は無視するのはどうなんでしょうね(なお住友化学の経営自体がいい加減なので十倉君の言い分に関しては鵜呑みにしない方がよさそうです)。

そもそもここまでスケジュールが遅れに遅れたのは万博協会が早期の段階で動かなかったのが大きな原因ですが(読売新聞記事「万博協会は「まともなやり取りできぬ」…業界の懸念放置・事務総長は「秘密主義」」)開幕まで時間が少なくなってきた段階で今更慌てたって遅いのです。

自分たちの不手際を建設業界に責任転嫁していますがこんなものは言いがかりとしか言いようがありません。

「建設会社は、『ナショナルプロジェクトの万博を成功させるため、最大の努力をする』とくらいコメントしてはどうか」とも正義君は言っていますがこれはつまり「建設会社はお国の為に赤字工事でも受注しろ、職人どもは徹夜で働け、大阪万博に協力しない奴らは非国民だ!」と言う事でしょうか。

冗談じゃありません。

上述の通り輸入建材の価格高騰という円安が不利益になる構造の建設業界に赤字をさらに押し付けるのは問題ですが住友電工の2024年3月期決算は営業赤字で苦しむ清水建設を尻目に従来予想を上回る増益見通しとなりました(日経記事「住友電工、純利益上振れで一転増益 24年3月期」)。

自動車の世界生産台数の増加に伴うワイヤハーネスの販売増が要因とのことですが円安が海外販売量の増加の追い風になるわけで円安が有利に働く構造です。

自助努力でない円安で儲かっている会社が自己責任でない円安で損をする会社を自助努力が足りないと言って叩くのはフェアじゃないと思うんですけどね。

労働力の代わりなどいくらでもいるし徹夜で工事すれば何とかなるとでも思っていたのでしょうが工事の職人さんに関して「代わりはいくらでもいるんだよ」という時代はもう終わったのです。

国家プロジェクトとは言うけれど赤字だから国家を前面に立たせて成功したら大坂の大手柄で失敗したら国のせいというのは汚いです。

というか大阪万博自体が夢洲カジノの整備目的の前座というのが実質ですしそれを国家プロジェクトと言うのもどうなんでしょうね。

なお大坂IRの開業スケジュールも余裕があるわけではありませんが大坂IR関連の土木工事に関しても当然能登の復興が先ですよね。

 

正義君の言い分というか言いがかりを検討する限り大坂というか大坂の大企業のメンツや利益を最優先する姿勢が露骨ですが大阪万博の成功には建設会社の協力が必要不可欠であることは間違いありません。

「建設会社はけしからん。万博を成功させようというコメントはどこにもない」と言うのであればどうしたら建設会社に協力してもらえるか円安でぼろ儲けしている住友電工以下大坂経済界が誠意を見せる必要があります。

労働力不足も問題ですが地震が多い国ですので安全対策もしっかり行わなくてはなりません。

手抜き工事が行われるのも困りますのでやはり相応の時間を確保して無理のないスケジュールで工事をして貰いたいです。

それになにより能登地震の復興が先です。

元旦の大地震で建物の半分以上が被災するような被害があったり港が隆起し断層による崖が地表に現れたりと壊滅的な被害状況が生じています。

コロナ禍でドバイ万博は延期になりましたが関西の隣接地域で発生した大地震の復興で資材や労働力も必要になる以上、大地震に伴う万博延期は正当なものであり正義君が主張するように延期は許されないといった話はありません。

もし延期の判断を不当だと主張する国があったら能登地震の被害を見てから言うべきでしょう。

それでもなお日本の事情を無視して予定通りの万博開催を要求するならその人々が非難を集めることになるでしょうね。。

万博をやめろとは言いませんがやはり延期は必要です。

加えてパビリオンの建設が終わっていない不完全な状態で無理やり万博を開幕させたってかえって万博の失敗と大阪経済界のショボさを世界中に晒す結果になりかねません。

そんなショボいイベントを国家プロジェクトというのも日本の評判が悪くなるのでやめてほしいのですが。

カジノ開業がゴールだから万博は失敗してでも予定通り開幕させるといった本音が透けて見えるのですがもちろんそんな話は通りません。

経済界は最大限協力していると言い張っていますが円安による人件費や資材高騰のコストは円安で利益を得た住友電工などの大企業だとか電気代値上げで過去最高益を更新した関西電力など(朝日新聞記事「関電・中部電など大手電力8社が最高益 料金値上げと燃料費下落で」)が追加で万博予算を拠出したらいいんじゃないかと思います。

以前も述べましたが53年前の万博基金を取り崩して経済界の拠出分に充当していますがその基金は本来国と大阪府のカネです。

にもかかわらずそれを流用して経済界の拠出分だと言い張るのは盗人猛々しいにもほどがあり経済界が最大限努力しているというのは大嘘、少なくとも円安で儲かった大企業の自助努力が足りないのは明白です。

 

大坂経済界のドンである正義君も年が年ですし引退の花道にしたいという意図もあるんでしょうがそんな下らないもののために建設業界に負担を押し付けたり一般国民を犠牲にするのは不当です。

真に万博を成功させたいなら延期して無理のないスケジュールを設定する、円安で儲かった大坂経済界が真水での追加の開催費用を拠出する、まともなプロジェクト運営ができないばかりか責任転嫁までする正義君や円安にもかかわらず長期にわたる構造改革の先送りで大赤字を出し万博どころか自社の経営すらままならない十倉君を更迭しきちんとしたプロジェクト運営ができる人材をトップに据えることが必要だと思います。

 

…と言っても大日本帝国末期みたいに首脳陣の会議で延期を言い出したら言い出しっぺが責任を取らされそうな感じなので誰も言い出せないのかなと思わなくもありません。

そもそも意思決定機関に組織の存亡をかけた戦いで大敗北した場合も含めて責任を負える人がいないメンバーばかり集まってしまったのが最大の敗因でしょうね。

経済界も自分の役員報酬と肩書及び叙勲など名誉ばかり執着するわりにいざという時に責任がとれない小粒な人しかいないですがそれも失われた30年の原因の一つでしょうね。

大阪万博の現状を見る限り住友財閥だとか大坂経済界の偉い人の実力がはっきりわかりますが大坂経済に関しては70年代からずっと停滞しておりこのあたりは上に立っている人の責任によるところが大きいですね。

結局のところ撤退の意思決定もできないし責任を取れる人が誰もいないから精神論でとにかく頑張れという話になってくるんでしょうが国のプロジェクトと言うんだったら岸田首相が万博は延期しますと言ったらそれに従うんですかね。

まあ内心では偉い人の中にも正義君みたいに大阪万博を花道にしたい人以外は本音ではやめたいと思っているのかもしれませんがいっそのこと国の権限で延期すると言ってあげたら少なくとも大坂以外の地域で内閣支持率は上がるかもしれません。

ああだから万博は国のプロジェクトだって言い出したのか。

膨れ上がった開催費用を国に押し付けたいという思惑だけじゃなくって延期だとか中止のような意思決定の責任も丸投げしたいってことですね。

そういえば太平洋戦争の時も陛下の御聖断で終戦となりましたがどう考えてもどうにも覆せない戦局で降伏するという意思決定の責任を負う覚悟があった将軍は皆無でしたね。

国のプロジェクトだったら延期するか中止するか予定通り開催を強行するかは総理大臣が最終的な責任を負うことになります。

大坂の政財界には責任をもって意思決定ができる人材不足で自分で自分のケツを拭けないから東京さん助けてください!ってことですかね。

都合の悪い時だけ東京頼みっていうのもどうなんでしょうね。

東京?何それ美味しいの?大坂なめんなや!と言うんだったら大坂の政財界の偉い人は膨れ上がった開催コストについて東京に頼らずきっちりカネを出したうえで相応の覚悟を見せる必要があります。

まあ退くのも勇気です。

もし維新がここでゴリ押しせず能登地震もあるので断腸の思いですが日本全体を考えれ万博は延期しますと言うんだったら大阪のローカル政党から全国政党への道が開けます。

延期したらメンツが潰れるも何も準備不足でみすぼらしい状態で予定通り開催したら余計にメンツも潰れるというものです。

カジノ開業が遅れた場合はメンツだけでなく経済面でも損失が発生すると算盤をはじく人もいるかもしれませんがそもそも大坂IR自体経済効果を過大に見積もっている面があり手を挙げる業者も少数に留まったことも考えると無理に進めないで計画を今一度精査した方がいいんじゃないかと思います。

強行したって得るところはないですけど実利を得られぬばかりかメンツも潰れるようなやり方はどう考えても非合理な意思決定です。

そういう非合理な意思決定を覆せるだけの人材が最高意思決定機関にいないから問題なわけでしかも最高意思決定機関の人材を入れ替えるのは相当困難です。

何せお手盛りルールでよほどのことがない限り偉い人の責任が問われない構造になってますからね。

 

もっとも「よほどのこと」が起きた場合はその限りではありません。

さすがに大日本帝国の偉い人は戦後に責任を問われ吊るされた人もいましたが敗戦が「よほどのこと」に該当します。

大阪万博が失敗した場合はそれが「よほどのこと」になるのかな?

まあ有耶無耶にして逃げ切ろうとするかもしれませんが万博の経済効果の判明だとか万博関連で汚職があればその汚職の話は2026年2027年あたりで出てくるでしょうね。

ちょうどその時期に子育て支援金のため社会保険料が上乗せ徴収されますがそのタイミングで万博関連の後始末の問題が噴出してきた場合は世論もきっと一般国民から奪ったカネで上級国民は私腹を肥やす構図に怒り出すでしょうね。

その辺の事情も考えたらやはり大阪万博は国の権限で延期して同時に複数の問題が炎上するリスクを取り除いた方がいいと思うのですがそれを抜きにしても能登地震の復興を考えるとやはり延期が適切、町の大半の建物が壊滅するような大地震が原因の延期を責める人はそう多くはないでしょう。

「よほどのこと」が起きて失脚したくないのであれば予定通りの強行開催はやめた方がいいと思うのですけどね。