1368ページ目 HISが中小企業なわけないだろ

コロナ禍による業績不振時に減資で中小企業になったHISの2004年10月期から2023年10月期までの業績は有価証券報告書で確認しました。

改めてみるとやはりコロナ禍が直撃しても大企業であることに変わりなく当然のことながらその辺の中小企業とは異次元レベルで異なる業績水準です。

 

たしかに今期までの業績は過年度と比較すればかなり厳しいと言わざるを得ません。

売上は2004年に2900億円でしたがリーマンショック直後の2009年10月期とテロにより収益性の良い欧州旅行の低迷及び為替損失が大きかった2016年10月期を除きコロナ禍前までは右肩上がりの成長を続け2019年10月期は8000億円の売上を叩き出し売上高1兆円まであと一息というところまで来ていました。
しかし2020年コロナ禍発生で暗転し2020年10月期の売上高は前年からほぼ半減、2021年10月期及び2022年10月期は1000億円台まで落ち込み最盛期の8分の1という惨状です。
2023年10月期は売上高こそ2000億円台を回復し経常利益もコロナ禍発生後で初めて黒字転換しましたが減損損失(日経記事「HISの最終赤字26億円、23年10月期 海外ホテルで減損」)もあって親会社株主に帰属する当期純利益は4期連続の赤字となってしまいました。
株価も過去10年を見ると2015年8月に4700円台でしたが2016年の業績悪化で3000円割れ、その後持ち直し2019年に4500円台に回復するも2019年のGW10連休があったのに業績予想据え置きIRで急落(会社四季報記事「エイチアイエスが急落、今10月期通期予想据え置きで失望売り」)し中国からのインバウンド需要で一旦持ち直すも2020年のコロナ禍発生で4月に1000円台に突入、政府にgotoキャンペーンやワクチン接種による観光需要の回復期待感から2021年に3000円台まで回復するも2022年2023年は赤字継続で株価は2000円台近辺をうろうろする展開が継続していましたが2023年10月期の決算と2024年10月期の業績見通し及び2024年10月期の復配予定が評価され(株探記事「HIS大幅続伸、5期ぶり最終黒字転換・復配見通しを好感」)株価は持ち直す兆しが出てきたところです。なお2023年12月18日時点の時価総額は約1500億円、2024年10月期の業績予想は売上高3500億円、経常利益72億円、親会社株主に帰属する当期純利益52億円となっています。


HISからすればまだ病み上がりなんです!売上高だってコロナ禍前の8000億円は遠いんです!借金だって2000億円もあるんです!親会社株主に帰属する当期純利益は4期連続で赤字なんです!自己資本比率もコロナ禍前の水準に回復してないんです!だから中小企業でも仕方ないじゃないですか!と言いたいのかもしれないですがさすがに時価総額1500億円に売上高2500億円で黒字転換見通しと復配のメドが立ち業績回復傾向が鮮明になりつつある状況でHISを「中小企業」と認めるわけにはいかないですね。
時価総額も2023年12月18日の東証プライム時価総額ランキング1659社中600位で中の上という水準です。
グループ従業員数もコロナ禍前の2019年は18393名でコロナ禍で半分近くリストラしたものの2023年は2022年から1000人近く回復し11816名となっています。
従業員数の基準で見れば製造業だと常勤者300人超が一つの目安ですが1万人超なら比較にならないほどの大所帯です。
営業拠点に関しても2019年に国内外で529拠点あったのを統廃合して2023年は296拠点、そのうち海外が162拠点となっています。
100か所以上の営業拠点を持ち海外進出もしているのに中小企業というのも違和感がぬぐえません。
2023年10月期末時点 有利子負債(単体) 2,129億円だってそもそも中小企業にそんな巨額の借金ができるだけの担保はないし数百億円規模で借金できる時点で中小企業と言っていいものかどうか。
事業売却は行っていますがまだラグーナテンボス(資本金11億8800万円)、九州産業交通HD(資本金10億6500万円)、エイチエス損害保険(資本金16億1200万円)といった大企業が連結子会社として存在し人事でも役員を送り込みHIS本社とも事業で密接な関係にあります。
大企業、しかも公共性の高い公共交通機関や保険会社を傘下に持っているのに親会社のHIS自体は中小企業というのは不自然過ぎるのだが。


売上高に関しても会計基準変更の影響は非常に大きいものがあります。
新収益認識基準が導入されることとなりHISも2022年10月期から導入しましたが旧基準の収益認識基準だと売上高から燃料サーチャージ分や空港使用料が除外され売上も出発日基準でなくツアー期間による日割り計算で計上することになりました。
なお旧基準だと2022年10月期の売上高は約2600億円になります。
旧基準でも決算説明資料で売り上げの内訳に燃料サーチャージ分が記載されていましたが円安原油高の影響で2019年10月期の燃料サーチャージよりかなり高騰しているのが伝わってきます。
なお2019年10月期の燃料サーチャージは約253億円に過ぎず旅行事業売上7224億円に占める割合は約3.5%でしかありませんでした。
燃料サーチャージの高騰も考えるとやはり売上高に含めて表示するのはその企業本来の収益力を適正に表示できるとは言い難いものがあり右から左に流すだけの燃料サーチャージ分は含めない新収益認識基準の方が分かりやすいと言えます。


2021年10月期2022年10月期に移転したばかりの本社ビルをセールアンドリースバック売却(やはり立派な本社ビル取得はヤバい、滅亡フラグである)し円安原油高による電気代高騰で危機に陥った電力事業を売却し観光事業の目玉でもあったハウステンボスも売却するなど不動産や事業の売却も行い新株と新株予約権も発行するなど資本増強も行っていますが同時に減資して「中小企業」になったのが2022年10月期です(日経記事「HIS、1億円に減資 10月に臨時株主総会開き決議」)。
上述の通り従業員数も減らして拠点数も減らしたし売上高(新収益認識基準)で最盛期の8分の1だから「中小企業」になるのも仕方がない思った人もいるかもしれません。
孫子曰く「兵は詭道なり」で戦局を有利に進めるために実態より強く見せかけることもあれば逆に弱く見せかけることもあります。
新収益認識基準は2018年4月から任意適用が始まっていますが2019年10月期も旧基準を継続したのはあと一息で売上高1兆円企業の仲間入りできそうだった、2020年10月期に東京オリパラで売上高1兆円の大台を突破したかったから燃料サーチャージも含めて売上高を水増し表示し実態より大きく見せかけたかったのではないか。
一方でぎりぎりまで新収益認識基準の適用を遅らせたのは2022年10月期にリストラを進めるためワクチンの普及である程度の回復が見込まれた2022年10月期の売上高がそんなに回復していないように見せかける、1000億円台をキープし前期比2倍の回復なのにリストラするのはやめろ、減資して中小企業になるのはけしからん!という声を封じたかったからなのではないかと思えてきます。


ただHISの中期経営計画も確認しましたがやはりこの内容でHISが「中小企業」で中小企業優遇税制により過度な節税に走るのは企業の社会的責任を果たしていないのではないかと言わざるを得ないですね。
リストラは済んだので今度はまた大きく見せかけようと旧基準ベースの売上高もカッコ書きで記載していますが2024年に7400億円、2025年に8600億円、2026年に9500億円という目標を立て2年後には2019年越えを達成する計画になっています。
ハッタリはどうかと思いますがわざわざ旧基準を持ち出して大きく見せかけたい、ハッタリの旧基準でなくても利益水準でもそれなりに成長する見通しが立てられるなら中小企業になることもなかったのではないか。
途上国と先進国のポジションを使い分ける中国のようなインチキっぽさをHISから感じるのですがその種の商売はどこで覚えた?
セコイやり方を継続して不信感を積み上げてもコツコツドカンで損をするかもしれないぞ。


まあ旅行依存度、特に海外旅行依存度を下げる戦略自体は妥当です。
コロナ禍で傷を大きくしたのは海外旅行依存度の高さが大きな原因でした。
このあたりは過年度の有価証券報告書の事業上のリスクでも旅行事業依存度の高さとその中でもさらに日本での売上が集中している点が挙げられています。
2016年も海外旅行依存度が高かったがために国内旅行にも強かったJTBとの差が明確に現れましたが(MAG2ニュース記事「旅行大手HIS、衝撃の97%減益。好調JTBとどこで差がついたのか?」)思えばこの時点で海外旅行依存リスクを低減すべく国内旅行や非旅行事業に力を入れていればコロナ禍でダメージを低減できたかもしれません。
もっとも旅行業のシェアを見る限り上位はHIS以外だとJTBや近ツーなど鉄道系が独占しています。
国内旅行で勝負しようにも戦前からの信頼と実績及びグループの鉄道網やバス会社を擁している鉄道系に勝てるはずがなく鉄道系の強みを発揮しづらい海外旅行で勝負せざるを得なかった、バブル期以降の円高メリットを活かして鉄道系にできない戦い方でシェアを増やしていくしかなかった面もあります。
昔からの信頼と実績をそんなに気にしない、上がらぬ賃金と上がる税負担で可処分所得が減り安さを追求せざるを得ない若い世代の間でHISの格安旅行や格安航空券が支持を広げたのも時代の流れだったのかもしれません。
ただそれでは海外で有事発生や円安の不利益が直撃するリスクと隣合わせの不安定な経営となります。
そしてその弱みもHISも自覚しているから九州産業交通グループを買収して国内での足腰を鍛えようとしたのでしょう。
しかし全国規模のネットワークを持つまでには至らずバスの運転手も不足していますが国内旅行をやるなら交通手段の確保も避けて通れません。
国内旅行事業を強化するならまた別の地方の公共交通会社を買収するのも一つの選択肢になるかもしれないですね。


なお非旅行事業として電力事業もやっていましたがこれは損失を出した挙句に2022年に撤退しています。
円安原油高でHISの主力である海外旅行需要が減少するリスクがある中で同時に円安原油高により損失が発生するリスクのある新電力を抱えるのは泣きっ面にハチとなります。
電力事業と海外旅行事業は特にシナジーは期待できそうもないですが構造的に両方同時に危機に陥る可能性があるだけに海外旅行依存度が高いHISにとって電力事業はリスク分散とはならないでしょう。


早期に本社ビルを買い戻すと言っていますが誰がそれを望んでいるのか?
コロナ禍前の本社より1.5倍広いとのことですがリモートワークもあるし従業員数も減ったのにそんな立派なオフィスはいらんだろ。
そういう余計なことするぐらいだったらさっさと増資して大企業に復帰してちゃんと税金を払え。


というかHISは子会社でgotoトラベルの補助金不正受給で税金を騙し取ったよな(読売新聞記事「HIS子会社不正受給疑いの補助金は最大6億8329万円…「GoToトラベル」巡り」)。
形式的に中小企業になったり補助金不正受給をやったりHISをこのまま放置しておくのは国益にならないんじゃないか?
税金は払わないし補助金は不正をやってでも受け取りたいとか一体何なんでしょうね。
BIZドライブ記事「海外留学で「みんながハッピー」になるビジネスを発見」も確認しましたが税金を支払うのもビジネスに含まれます。
「みんな」の中には大企業が税金を支払いその税金で公共サービスを受け取る負け組一般国民も含まれるのですが本来担税力があるにもかかわらず「中小企業」の皮を被って過度な節税に走り見栄で買った本社ビルの買戻しを最優先するような会社が日本にいたら負け組一般国民はハッピーになれません。
「挑戦心あふれ 世界をつなぎ 選ばれ続ける企業に」と言っていますが挑戦するならまず本社ビル買戻しに使うカネをリストラした従業員の再雇用や賃上げに用いなければなりません。
世界をつなぐのは本社ビルでなく日本と海外の架け橋になる従業員ではないか。
もちろん実態は大企業なのに「中小企業」として過度な節税をするような会社を選ぶのは社会の利益にならないのでもし旅行をするとしても私はHISを選びたくないです。
これから先、中国経済がどうなるか不明で中国からのインバウンドが減少する懸念もあるし台湾有事発生で飛行機を飛ばす自体危険な状況に陥るかもしれず2026年あたりまではともかく2030年にどうなっているかは何とも言いようがありません。
ただ当面の見通しに関しては好調でアナリストからも業績回復が期待できる旨の分析も出ています(日経記事「HIS、8%高 海外旅行需要の本格回復に期待高まる」)。

2023年10月期はまだ行動制限の影響がありましたが今後は1年間通して行動制限なし経営環境になります。
往来が制限されたコロナ禍での教訓を活かして着実に構造改革を実施し業績を回復させ一日も早く大企業に復帰し担税力相応の税金を支払うことを期待しています。