1271ページ目 四半期レビュー任意化とグロース企業のコストカット

東証の市場区分の見直しに関するフォローアップ会議と「四半期開示の見直しに関する実務検討会」第2回検討会の議事録はざっと目を通しました。

案の定、企業サイドからは四半期レビューは絶対に廃止してやるぞという強い意思が伝わってくる内容でした。

現状では上場企業は四半期毎に会計監査人がレビューして相当程度の正確性がある財務諸表を公表することになっていますが経済界からは忙しいしコストカットしたいので第1四半期と第3四半期はレビュー無しにしたい、将来的には財務諸表の開示自体をやめたいといった主張が上がっています。

まあ企業からすれば業績が悪い時の財務諸表なんて開示したくないし自分たちは間違っていない、ちゃんとやっているので外部から正しいかどうかチェックされること自体がカネの無駄だし信用されてないという認識なので気に入らないという話にはなるでしょうね。

四半期レビューは任意であることを強調すべきだ、といった意見もありましたが問題を起こした企業に四半期レビューを必須化すると他の四半期レビューを受けている企業が何か問題を起こした企業であるかのような誤解を受けたくないと言うのもあるんでしょうね。

ただそれだったら問題を起こして四半期レビューが必須になった企業についてこの企業は過去に問題を起こしたので四半期レビューを受けることになりましたと一言書いておけば済む話です。不名誉を引きずることになるのでそれは嫌だと言うでしょうが問題を起こしたのがそもそもの原因であるので不名誉な表記も一種のペナルティのようなものです。

四半期レビューはライブドアなど新興企業の粉飾が問題となって導入された面もありその後は東芝が粉飾を行いその後の四半期決算も色々と問題になるなど新興企業から名門グローバル企業まで問題が起きています。

粉飾自体が全体として高止まりにある中で経済界のゴリ押しで四半期レビュー任意化の方針が金融庁ディスクロージャーワーキングで決まってしまい具体的な話を今度は東証で議論することになっているのですが同時進行で市場区分の見直しに関するフォローアップ会議も行われています。

その中の課題の一つにグロース市場上場企業の取り扱い、上場したはいいが上場した時が株価の最高値でその後は鳴かず飛ばずになりグロース市場にずっと滞留したままという上場ゴール問題があります。

で、ここでも四半期レビューの話が出てくる、東証の資料「グロース市場の機能発揮に向けた対応方針について」でグロース市場上場企業経営者からのアンケート結果が出ているのですが主な意見の上場維持コスト関連で四半期レビューの負担がコスト面と人材面で重いが四半期レビューを切ってその分を成長投資に回したいといった話も上がっています。

このアンケートの対象企業は時価総額250億円以下、上場後5年未満の会社が大半となっておりぶっちゃけショボい会社、まあイケイケ営業のオーナー社長が経営する若い企業、大企業としての陣容を整えていくステージにあるわけですから負担が重いと感じるのも無理からぬことです。

しかしそれが上場するということでありより成長して大企業になっていく上で避けられない成長痛というものです。

人材面で負担がある、つまり経理の人材が足りていないということであればなおさら会計は大丈夫なのか心配になってくるので四半期レビューは特に新興企業で必須です。

会計監査で経理が間違った会計処理をしていたらそれを指導するのも会計監査の役割です。

監査報酬の水準も高いと言うけど1社で何億円も受け取っているわけでなく監査法人も人手不足で人材を確保しないとなりませんし悪質な上場企業もある中では訴訟リスクも重いんです。米国と比較してもそこまで高い監査報酬を受け取っているわけでなくむしろ安い部類なのですがそれすら支払えない状態で上場するのもどうなのかと思います。

上場基準が低すぎるといった話も上がっていましたがまあたしかに国際的に見て安い監査報酬すら支払えない状態の会社だったら上場するにはまだ早すぎたと言わざるを得ないですね。

上場したことで会社の信用力や資金調達力、社員のモチベーションが上がったともありますがコストを払わないで利益だけ受け取るというのも虫が良すぎます。

そもそも上場企業と未上場企業ではステージが違い上場企業は攻めだけでなく守りも固める、相応の経営管理体制を整える必要があります。

兵站ロジスティクスには会計も含まれますがオーナー経営者の個人商店と株式を一般投資家に公開した上場企業では当然兵站も相応の内容に整えなければなりません。

組織が大きくなれば企業にせよ軍隊にせよ経営者や将軍個人では末端までとても目が行き届かない、だからこそバックオフィス部門を強化する、しかし経理を他人に預けると不正や横領をする者も出てくるリスクもあるので業務監査や会計監査なども強化し組織の管理体制を強化してきた歴史があります。

紀元前のアケネメス朝ペルシアでも王一人では広大な地域を統治できないので各地方にサトラップ、総督を置き、その総督の勤務状況を把握するために王直属の監督官、王の目を創設し王国全土のガバナンスを整えています。

株主に代わって経営者が会社の統治を行うとしてその業務が適切に行われているかどうかに関しては経営者からの自己申告では不安、王の目がなかったらアケネメス朝ペルシアでも地方でサトラップのやりたい放題になったでしょうね。

個人商店の意識でやっている経営者だったら自由にやりたいので外部の人材にあれこれ見られてうるさく文句を言われたくない、バックオフィスのような会社の収益につながらない部門はクリエイティブじゃないブルシットジョブだと考えるかもしれないですがどこに思わぬ落とし穴があるかわからないものです。グロース企業じゃないですけど最近でも長野県の建設会社ヤマウラで26億円もの横領が発覚しました(朝日新聞記事「10年で不適切支出26億円 建設会社「ヤマウラ」子会社で 長野県」ヤフーニュース)。

ワンマン経営者だって騙されるときは騙されますけど会社の経理もその経理をチェックする会計監査にもちゃんとお金をかけないと悪い社員に2ケタ億円も横領されることだってあるんです。

兵站無視、組織にいくら軍資金があるかきちんと把握する、軍資金が横領などされておらず適切な経理がなされているかをチェックしないでイケイケどんどんで敵地深くまで侵攻したけど深入りしたところで軍資金不足が発覚しました、入り込んだ敵軍のスパイに盗まれましたとか昔もあったかもしれませんがちゃんと予算をかけた上で四半期毎に外部のチェックを受けないというのは色々心配になってきます。

不正に限らず第1四半期第3四半期での業績の急変もあり得る、例えばニデックからのTOBを受け入れたTAKISAWAですけど第1四半期で繰延税金資産を取り崩してます。

この繰延税金資産というのが曲者で会社の将来の収益、経営者による会計上の見積もりが適正かどうかを判断しないとならない、要素もあるんですけどこれを取り崩すということは将来の収益が不透明になってきた可能性もあり得ます。

会社も会計監査人もちゃんと会計上の見積もりについてしっかり見たのか?なんで繰延税金資産を取り崩すのか?そこはどの四半期であるかに関わらず説明がほしいのですが繰延税金資産に関しては過去にも2000年代初頭にこれを取り崩すかどうかでりそな銀行公的資金が注入され実質国有化されるに至った、最近でも三菱製鋼が過年度の繰延税金資産の取り崩しで誤りがあり過去の有価証券報告書の訂正を行っています。

財閥系企業ですらこの有様では新興企業とか大丈夫なのか?とも思います。

東芝ライブドアのような大事故が起きたら遅い、一発アウト案件に関しては問題を起こした企業だけ四半期レビューを受ければよい、四半期レビューを受ける企業は問題を起こした企業と誤解される、四半期レビューは会社の評判を貶め株主利益につながらないので廃止にするといったロジックで経済界は外部の第三者からのチェックを逃れたいという意思が伝わってきますが四半期レビューで経営者すら把握できていない不正や誤謬の類を早期発見早期是正することで自社の経理の不備を補うことができる、人間誰しも完璧でなく経理だって間違えるときは間違えるのですが不正も誤謬も高水準で推移していることを踏まえて経理など間接部門の強化と第三者によるチェックは強化し会計も含めたガバナンス全体をしっかり確保してほしいものですね。

 

以上、本日の備忘録兼下書きでした。

後日に手直しと加筆します。