1174ページ目 生成AIと身体知

生成AIにより人間が取って代わられるといった話があちこちで出ていますが今後は生成AIでは代替できない仕事が評価されやすくなる、例えば生成AIで代替できない取材でネタをとってくる人、戦場など実際に危険な現場に赴くジャーナリストがより報酬を得られるようになるかもしれないですね。

「記事は足で書け」といった話もあるようですが生成AIの普及により一周回って原点回帰する類の仕事も中にはあるのでしょう。

ファクトチェックが重要な課題なだけに真偽をきちんと確かめる取材の価値はより重要になってきます。

あるいは生成AIにはない高い美意識や五感を持つ人材も評価が高まるかもしれません。

たとえば東西新聞社山岡士郎による食レポ記事と実際に味覚があるわけでもない生成AIの山岡士郎風の記事ではオリジナル本人が書いた記事の方が信頼されるでしょう。

料理の味のような活字で伝えることが困難な情報をどれだけ言葉で伝えることができるかに関しては高精度の味覚と微妙な所まで言葉にできるセンスがないと難しいです。

そのあたりは日経記事「生成AIの衝撃と教育 答えの「適当さ」見抜く力を」にもある通りネット上に出回っていない身体知の価値を今一度見直す必要が出てくるでしょう。

 

一方で五感や人間の心や感性のような一見科学や論理とは対極にありそうなものとて研究が進めば科学的に解明でき論理的に説明できるようになる、味覚センサーや分子ガストロノミーがより高度に発達すれば魯山人池波正太郎開高健等々名うてのグルメ作家たちのデータを用いた生成AIとの組み合わせで食レポ記事(食レポというより測定記事と言うべきだが)も作成できそうな気もします。

近年では人材不足で技術の伝承が困難になっている町工場も多く長年の身体知によって獲得されたノウハウをデジタル化して次世代に残しつつ生産性も向上させる動きがあります(日経記事「中小「職人の技」データ化 艶金、AIが若手指導 色検査の合否2000件分析」)。

「適当さ」はアナログの強みですがデジタルとて突き詰めていけば実現できないこともなく身体知のようなアナログな分野においてもデジタル化は可能ではないかとも思います。

そして生成AIの開発は世界中の企業がしのぎを削っており本当にネット上の全ての情報を瞬時に吸収して成長の限界が訪れた場合に想定されるのはネット上にないデータの取り込みによる差別化です。

日本の美意識は日本のインバウンドの強み、ソフトパワーの源泉になっていますがそれらをデジタル化して生成AIに取り込む企業が世界のどこかで現れたらどうなるか?

日本以上に和風な美意識を持った創作物や製品が諸外国から発売され本家本元日本のお家芸のお株を奪うような状況になるかもしれないです。

日経記事「生成AIの国内開発支援 経産省」でも出遅れた日本の生成AI開発について省エネ性能の向上を支援する案が出ていますがグリーンとデジタルの話を考えればこの案自体は妥当です。

ただ本質的には改善の領域に留まり根源的な競争力の強化になるかというと力不足感は否めずイノベーションを起こして世界を追い抜くには生成AIにできない課題の解決を考えるのが重要です。

そういった意味では身体知のデジタル化も支援して生成AIとの融合について研究開発を進めるのも一案です。

 

もっとも今のところはそこまでの技術水準には達しておらず高レベルの五感を要求される仕事ができる人材の代替は難しいでしょう。

山岡士郎はかなり扱いが難しい人材ですがそんな人材をマネジメントできる、かつ、理不尽な大原オーナー相手であっても筋を通して部下を守ることができる谷村文化部長もまた天才の力を引き出してイノベーションを起こさないと生き残れない時代では必須の人材です。

というかこの種の人材は滅多におらずいつの時代も高評価で手に負えないほど腐敗が進行した組織や誰も生き残れそうにない負け戦に巻き込まれない限りは環境が変化しても人生安泰かなと思います。

富井副部長は…ぶっちゃけ、いらない感じです。

根はいい人ではあるのですが酒乱やパワハラはアウトです。というか副部長とか部次長とか両方ある場合はどちらがより権限が大きいか外部から見てわかりにくいこともあるんですが中間管理職のポスト自体シンプルにしたほうがよいです。

収集元が提供したネタを元に記事を書く人で今後も生き残っていける人は生成AIも及ばぬほど深い考察ができ収集されたネタの組み合わせから別の何かを発見し新たな情報を産み出して記事を書ける人、あるいは生成AIに読み込まれた過去の名執筆者たちの筆力をも凌駕する卓越した表現ができる人ではないかなと思います。

なお生成AIに誤情報や偽情報が含まれるリスクもありこの点は社会的に情報の信頼性がより大きな課題になる、人間によるファクトチェックを強化する必要がありファクトチェック担当者も今後は有望かもしれません。

信頼性の保証という点で各種監査など保証業務の重要性は今後高くなる可能性もあります。

別の生成AIにファクトチェックをやらせるのも一案ですが会計監査対象の財務諸表が要求される合理的な範囲での正しさ以上の精度が求められる場合、公的な報道や学術論文など致命的な誤情報や偽情報が一切許されない分野に関してはファクトチェックする別の生成AIも間違えるリスクも否定できないので結局生成AIが作成した全ての内容について精査することが求められるでしょう。

取材にせよ新規の創作物にせよネットに出回っていない新しい価値を産み出せる人材の重要性は今よりもずっと高まるかもしれません。

もちろん価値ある一次情報の生産者や群を抜いたクオリティの差別化ができる二次情報の生産者には今までより多くの対価の支払いが必要になってきます。

生成AIは精度に課題はあるものの今後の改善次第で社会そのものを激変させる可能性がある、リスクとリターンの両方があるが少なくとも情報を利用する場合には権利者の保護が必要、オリジナルの本人への通知や対価の支払い、オプトアウト等については整備する必要があるかなと思います。