1260ページ目 毒を以て毒を制す、ハブ毒VS認知症原因物質?

熱帯地域に生息し猛毒を持つハブ。

近年では血清療法の普及によりハブ毒で死亡する人はかつてよりだいぶ減りましたが噛まれて毒が回った状態で何もしないままだと48時間以内の死亡率は90%とも言われています。

そんな危険なハブ毒ですが東北大と東京大の研究チームによりハブ毒には認知症の原因物質を分解する作用があることが判明しました(日経記事「ハブ毒成分に認知症原因物質の分解作用 東北大など」)。

 

アルツハイマー病の原因の一つにアミロイドベータというたんぱく質が脳に蓄積することが挙げられていますがアミロイドベータを分泌する培養細胞にハブ毒を加えるとアミロイドベータの蓄積がほとんど減少したりアミロイドベータそのものが分解されるそうな。

今後はマウスを使って調べるとのことです。

マウスで実験して効果があったらサルで実験して安全性も確認出来たら人間で実験という流れで実際に人間の認知症にどれだけ効果があるかが確認されるのは当分先の話でしょうが認知症の患者は2030年には世界で7800万人にもなると予測されており(ロイター記事「世界の認知症患者、2030年までに7800万人へ増加=WHO」)早期の安全かつ効果のある認知症治療薬の開発が望まれます。

 

それにしてもまさかハブの毒が認知症に効き目があるかもしれないなんて驚きましたね。

まさに毒を以て毒を制す、ですが何でまたハブ毒が認知症の原因物質を分解するという発想になったのやら。

「ハブ毒 タンパク質」で検索してみると「ハブ毒を科学する 多様な生理機能 と加速進化」(上田直子, 千々岩崇仁, 大野素 崇城大学工学部)という論文が出てきました。

それによるとハブ毒には他の生物よりも複雑な組成があって多様な生理機能があるたんぱく質を持っており投与した場合の生理機能も独特で様々な効果があるようです。

何が起こるか分からないけどタンパク質つながりで認知症関係のタンパク質について試してみようといった話になったのかもしれません。

意外な所から意外な可能性が出てきましたが一見すぐには役に立たないというか役に立つかどうかも不明な研究に関してもいつどこで驚愕の研究成果につながるか分からないものです。

この種の研究は他にもたくさんありますが他の何かに応用できそうな点はないか改めて見直してみるのも科学技術力の向上につながる、この種の研究にも大成功した研究から得られた収益の一部を還元して次のサプライズの種まきをするのも長い目で見れば大きな効果があるかもしれませんね。

 

とはいえハブ毒が認知症に効くかもしれないとの話はまだ実際に人間に投与した場合の安全性と有効性が示されたわけではありません。

さすがに認知症を治療するためにハブに噛まれに行くといった人はいないでしょうが認知症に効くハブ毒成分配合のサプリとか売り出す人がひょっとしたら出てくるかもと思いました。

例えばハブが生息する沖縄には長寿の人が多い、ハブ酒を飲んでハブ毒のタンパク質を接種しているからだ、とか言って売りつけようと考える人もいるかもです。

しかし実際に効くかどうかはもちろん不明、というかハブ酒どころかアルコール自体飲まない人だっているし他の食品類が健康に効果があっただけかもしれない、そもそも沖縄が長寿県というのは昔の話で今ではそうでもなくなってきています(プレジデント記事「男性の平均寿命が1位→36位」沖縄があっという間に"短命県"になったシンプルな理由)。

もっとも伝統的な食生活がファストフードの流行で廃れ生活習慣病が増えたのが平均寿命の減少の原因であり、だから昔のようにハブ酒を飲みましょう、と言い出す人が出てきたらそれも厄介ですが。

ただ上述の通り人間が用いた場合の安全性と有効性は証明されていないです。

…でもまあ証明はされていないけどつまり効くかもしれない、色々試したけど既存の薬も効かないので駄目元で試してみようかなという人もまた出てくるでしょうねきっと。

中国の始皇帝も不老不死を求めて様々な物を試しましたが古今東西、健康問題は切実です。

ただやはり猛毒には違いはないしやたらと高額だったらそれも困ります。

変な人がハブ毒関係の食品類は認知症に効くと言ってそれらを売りつけようとしてきた場合は気を付けたい、効くかどうかわからない状態では詐欺に使われる可能性もないとは言い切れないのもあるのでハブ毒と認知症の話については研究を進めて実際に効くのかどうかはっきりさせてほしいものですね。

人間の認知症にハブ毒が効果なしであったとしても少なくとも無効であることの証明で詐欺のタネを一つ潰す効果がありハブ毒と認知症の関係については予算をつける価値はあると思うのですが…。